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空中でジャグリングするように必死で掴み直し、心臓をバクバクさせながら振り返ると
そこには同期の田中がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「ははっ! なんだよ今の声。お前、面白い反応するなぁ」
「な、なんだ田中か…びっくりした……っ」
「悪い悪い。で? 昼飯も食わずに何見てたんだよ。そんなに熱心に……おっ」
スマホを隠す間もなかった。
田中の鋭い視線が画面の「WATERMAN」のロゴを捉える。
「……プレゼント?」
「え!? あ、いや、これは……」
「隠すなよ〜。ニヤニヤしてたぜ? で、誰に贈るんだよ」
「こ、これは恋人へのやつで……!」
顔に火がつく。
動揺して、正直に答えすぎてしまった。
田中は「へぇ〜、ボールペンか。センスいいじゃん」と茶化し続けようとしたが──
(あっ……!)
廊下の向こうから歩いてくる人影に、俺の全身が硬直した。
自販機コーナーで缶コーヒーを買っている、あの長身で落ち着いた佇まい。尊さんだ。
彼は一瞬、こちらに視線を向けた。
俺と、その隣で騒いでいる田中を。
(やば……今の会話、聞こえてないよね? 「恋人へのプレゼント」なんて……)
もし聞こえていたら、当日までのサプライズが台無しだ。
俺は慌ててスマホをポケットにねじ込み、田中を置いて駆け出した。
「あっ、たけ……し、主任!」
「おい、雪白?」
という田中の困惑した声を背中に受けながら、尊さんの元へ滑り込む。
「どうした、そんな慌てた様子で」
尊さんは買ったばかりの缶コーヒーを手に、不思議そうにこちらを見下ろしている。
その至近距離で見つめられると、隠し事をしている罪悪感で心臓が痛い。
「な、なんでもありません! それはそうと、尊さん、お昼まだですよね?」
「?ああ」
「じゃ、行きましょう!いつものとこ!」
俺が急かすように歩き出すと、尊さんはいつものように隣に並んで歩き始めた。
◆◇◆◇
いつもの定食屋
使い込まれた木のテーブルを挟んで、俺たちは向かい合って座る。
店内に漂う出汁と醤油の香りが、少しだけ俺の緊張をほぐしてくれた。
「いつものでいいよな?」
「はい! 尊さんは?」
「…今日は日替わりの焼き魚にするか」
注文を終え、料理が運ばれるまでの静かな時間。俺はさっきの田中の場面を思い出して、心中で冷や汗をかいていた。
(尊さん、本当に気づいてませんように…)
チラリと彼を伺うと、尊さんはただ静かに、お茶をすすっている。
その様子はいつも通りで、何かを怪しんでいる風には見えない。
「……いただきます」
運ばれてきた定食。尊さんはまず、ご飯を一口。