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中華がここに滞在する事を許可したのは、中華にお願いされたから。そんな理由もあるが、俺の私情も挟んでいる。
「中華、早速で悪いんだが、荷物を置いたらちょっとついてきてくれないか?」
中華のために用意した客間に案内しながら、中華に話しかける。
「勿論ですアル」
中華はある程度の家具がある客間に荷物を置いて、快く承諾してくれた。
思わず、安堵のため息が出そうだった。だが、安心していいのはまだ先だ。
「ありがとう。中華、俺の弟の、炎露と少し話して欲しいんだ。少しでも嫌だと思うなら、拒否してくれたっていい」
拒絶されたら、その時は炎露が出てくるのを気長に待つだけだ。ただ、炎露には、外の世界を知って、たくさん笑いながら生きてほしい。
「頼めないだろうか?」
中華のオッドアイを真っ直ぐに見つめ、頼んでみる。
これは、俺のエゴだ。だが、兄と言うものは、どうにも弟の事を雑には扱えない生き物のようだから、大目に見て欲しい。
俺も、兄さんも、炎露の事はずっと大切に思ってる。
偶々、兄さんの死ぬ時に、炎露が触れた時に能力が発動しただけの話だ。それが何だと言う。俺の、俺たちの弟である事には変わり無い。
「引き受けますアル」
何かを決心したように、中華は俺の今もなお黄色に輝く左目と、黒の眼帯で隠された右眼を見つめ返した。
「ありがとう」
引き受けてくれた事に、嬉しさで涙が出そうだった。だが、この涙は炎露が自分から部屋を出てきた時に流すと決めている。ここで泣くわけにはいかない。
早速、中華を引き連れて、炎露の部屋の前へ向かう。
古くなった家には軽快なヒールと重苦しい革靴の音だけが響く。
「中華、なんで、引き受けてくれたんだ?」
そんな静けさを打ち破るように、俺はまた、中華に問いかけた。
「師匠への恩返し…。って言い切れたら一番良いと思うアルが、正直に言うと、師匠の弟さんに会ってみたかったからアル。師匠の弟さんなんだから、絶対良いドールアルヨ!」
中華は照れくさそうに頬を紅く染め、笑いながら俺に話してくれた。
実に、中華らしい回答で、俺も、ついつい笑みがこぼれた。
俺の予感はこの時、確信に変わった。
中華なら、炎露の冷たい氷を溶かしてくれる。と言う確信に。
炎露の部屋の前に到着すると、氷で覆われたドアの前でかがむ。