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「 その命の代わりに致死量の愛を。 」


Another Story



「  その初恋の上書き保存を。  」


栗 林くりばやし  波 瑠なる  side

























誰かが ‘ 初恋は叶わない ’ と言っていた。


確かに其の説は正しかった。

私が幼いながらに惚れて一途に想い続けた男は突如現れた女に盗られた。


抜け駆け?

略奪?


否、違う。

彼女が彼を好きになったのは不可抗力で、

彼は最初から彼女が好きだった。


御役御免なのは私の方で、

最初から私は除け者だった。


私は可愛いと思っていた。

と言うより、可愛い。

世間一般的に見ても結構顔が良い。

お陰で好きな人以外からはモテる。

告白もよく有る。

そう。

好きな人 ‘ 以外 ’ からは。


「 波瑠、今度デートしようよ 」


と、噂の女。


「 月奈さん遂に浮気ですか? 」


続いて其の配偶者 兼 私の初恋の男。


「 パス。其処の旦那と行って。 」


意地張る私はどうも醜い。


大学在学中に付き合い、

男がプロポーズをし、

無事結婚して幸せ真っ只中の2人。


私は其処らのアパレル企業に就職して

多くは無い給料で好き勝手やっているだけの、

ほんの少し顔が良いだけの

何も無い平凡な女。


今でも友達だ。

関わりたくない訳では無い。

今更、悲劇のヒロイン振るつもりも無い。

結婚なんて本人より飛び跳ねた。


唯、少し、ほんの少し、

人を愛するという事が恋しくて、

眼の前で見ていた分、

自分の恋が疎かになって、

少し、恋をしてみたいだけ。


「 月奈、合コンの情報とか無い訳? 」


「 新婦にそんな情報は無いよ 」


カレシ、ダンナ。


嗚呼、心底羨ましい。


彼女が恋をしたのは2人目らしい。

2人目は不変の愛を教えてくれるとやらで

何処と無しか嬉しそうに見えた。


私の2人目の運命の人は

中々見付からずに挫けそうになる。


「 なるち、彼氏探してんの? 」


小さい頃から変わらない呼び方に

些か安堵した。


「 違う、結婚を前提に付き合える男を

全力で探してる。 」


「 マッチングアプリやれば?

其れか職場の男片っ端から当たる 」


適当にも程が有る。

マッチングアプリなんて何奴も此奴も

身体目当て。

職場の男に興味など更々無い。


「 月奈って他人事だと雑だよね 」


運命の人居ないかな、なんて

少女漫画地味た独り言を零した。



どうも帰る気分にはなれずに夜の繁華街を独り歩いていた。


「 あの!お姉さん、! 」


何処からか聴こえてくる声に呆れた。

繁華街は身体目当てのナンパばかりだろうか。

結婚相手なんて捜している人は私くらいか。

虚しくなって家に帰ろうと踵を返す。


「 え、あ、ちょっ、と!

お姉さん無視しないで下さいよ、! 」


腕を掴まれた、と理解したのはコンマ数秒後。

やけに顔の整った男だった。


「 ナンパされる気分じゃないんだけど 」


「 ナンパと言えばナンパです、けど …

なんつーか、一目惚れしました。  」


‘ 運命 ’ ってこういう事を言うのでしょうか。


「 は … ? 」


「 一目惚れとか軽いですよね

引き留めちゃってすいません、笑 」


焦った様に手を離す男を少し憎んで

引き留めてやろうと思った。

折角なら運命か確かめてからにしようと。


「 … アンタ名前は? 」


「 古賀こが 海羅かいらっス 」


少し大人びて見える男は古賀と名乗った。


「 海羅君かー、何歳? 」


「 え … 22歳ですけど、なんスか 」


幾ら自分からナンパした女と言えど

急に グイグイ来られて戸惑っていた。


「 新卒?歳下かー、アリだね 」


ひとつ歳下の青年に ‘ アリ ’ と伝えて

連絡先を教えた。


「 あの、貴女の事は何も聴いてません  」


「 次逢う時で良いんじゃない?

もう徐々、終電も終わっちゃうし 」


時間大丈夫?と聴いても

何も言わずに此方を見つめてくるだけで

中々返事をしようとしなかった。


「 終電に間に合ったらもう逢えないかも

しれないじゃないですか … 」


繁華街に溶けてしまいそうな声で

弱々しく言われた。


「 一人暮らしの男の家に泊まるのは …

やっぱり、恐い、ですか?  」


彼らもこんな想いをしたのだろうか。

こんなにも胸を締め付けられる様な苦しさに

私は耐えられそうに無い。

出逢ったばかりの男にいとも簡単に

眼を奪われて

離せなくって

呼吸が浅くて

泣いてしまいそうで。

こんなの可笑しいと解っている。


「 恐く、無いよ … 」


縋ってしまった。

其れからは早かった。

彼の少し大きなバイクの後ろに乗って

繁華街を飛び出して

一軒家まで夜の街を走った。


「 今更ですけどお姉さんは名前

何て言うんですか?  」


綺麗に整頓された部屋に入るなり、

質問される。


「 栗林 波瑠、23歳 」


マジで歳上じゃん、なんて

少し驚いた様に言う彼。


「 じゃあ次、波瑠さんは何で俺に

着いて来てくれたんですか? 」


「 運命の人か確かめる為 」


軽快な笑い声で掻き消される缶ビールの蓋を開ける音。

飲みます?なんて聞いてくる。

酒は苦手だと伝えると普通の麦茶を出してくれた。


「 んで、俺は運命の人だったんスか? 」


こういう時、自分を貫いている彼女なら直ぐに答えが出そうなものなのに私は案外優柔不断らしくて答えは一向に出ない。


「 判んない 」


「 … 私さ、幼馴染を好きになって、

大学で今は友達だけど女の子に盗られちゃって、でも其の子も幼馴染も全然悪気は無くて、ほら恋って不可抗力みたいな所あるじゃん? だから別に良いんだけどさ…

なんか恋とかしようにも相手見付からなくて

悩んでたんだよね、笑 」


ひとりで勝手に恋の悩みを打ち明けてしまって焦ったものの取り消す事は出来なくて逃げたくなる。


「 急に御免、誰かに話したくて、笑  」


「 波瑠さんって性格良いんですね 」


ふとそんな事を口にする彼に驚いた。

意味が解らなかった。


「 好きですよ、俺は。

そういう素敵な性格も可愛らしい外見も 」


麦茶を詰まらせそうになって噎せてしまう。

馬鹿みたいだ。

こんなの恋と言えるのかどうかも判らない。


「 初恋、上書きしてくれんの? 」


「 まあ仕方無いですよね。

俺は、貴女に惚れてしまったので。  」


酒は飲んで居ないのに酔った様に

頬が熱く、紅くなる。


「 此れは、酔った勢いに任せて言った

とかじゃ無いので安心して下さい。 」


酔っていたのなら良かった。

真剣に ‘ 惚れた ’ なんて言われたら

私まで惚れてしまいそうになる。


「 結婚を前提にお付き合いしませんか?

栗林 波瑠さん。 」


お酒で酔ってる訳では無いのに、

あんなにも幼馴染を好いていたのに、

どうして君は私を惚れさせられるの。


此れが、運命なの?


Yesの返事に強く抱き締められた。


歳下となんてらしくない。

ナンパなんてらしくない。

恋愛だなんてらしくない。


私は一体どうしたのか。

気付けば歳下のハイスペックな男に

惚れていた。



「 で、付き合ったの?ナンパ師と?  」


元恋敵は少し大きな声で問い詰めてくる。


「 はい 」


面倒になって適当に流し始めた私に

呆れたのか溜息まで吐いた。


「 そんなの全然らしくない。怖い。

何なの?どうしたの? 」


「 なるちが好きなら良いじゃない 」


「 煌君、御相手はナンパ師だよ?

幼馴染がそんなの容認しないでくれる? 」


煩い夫婦。


「 ナンパって言うか、一目惚れされた。

運命の人かなー、って思った。

私も好きになったから付き合った。 」


淡々と

彼を想い出して笑みが零れるのを抑えて

要点だけを伝えた。


「 波瑠は今彼氏が出来て幸せ?  」


大人の雰囲気を纏う黒髪を束ねながら

そう尋ねてくる。


「 うん、とっても 」


「 … なら、これからも御幸せに 」


柔らかな笑みは学生時代を想い起こさせる。

照れ臭くなって適当に笑顔で返した。

ひらりと片手を振って帰って行った。



「 波瑠さん!好きです! 」


「 あ、うん、私も好きだよ 」


彼の家に行くと挨拶宛ら

‘ 好き ’ の言葉が飛んでくる。


「 ネイル変えました? 」


「 よく見てるね笑 」


「 好きな人の事は見て当然っス 」


呼吸をする様に好きだと言う彼に何度惹かれたか判らない。


「 波瑠さんってツンデレですか? 」


「 知らない、けど

親友にはツンツンデレって言われる 」


「 じゃあ俺にはデレばっかっスね笑 」


想い返すと彼を突き放した記憶が無い。

君と居ると調子が狂うだなんて傷付けてしまいそうだから胸の内に留める。


「 そうかも笑 」


「 そう言えば初恋が大学までって事は

俺は初彼氏っスか? 」


「 あー、うん 」


貴方ばかり見ていたから

付き合うなんて事は初めてで

自覚してまた熱くなる。


「 最初も最後も奪っちゃいましたね笑 」


‘ 最後も ’ なんて狡いでしょう?


「 ねぇ海羅君、波瑠の事

絶対に離さないでよね 」


「 当たり前じゃないですか。

俺が最初に貴女に惚れたんですよ。 」


海に打ち寄せては引いてゆく波の様に

恋心は一度じゃ収まらなくて

昔は貴方に惚れた私も

今じゃ君を恋い慕っている。


繋いだ手を離さず抱き締めて。

其の儘そっとキスをして。


初恋を、

上書きして。











𝐹𝑖𝑛.









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コメント

12

ユーザー

くっそコメ遅れたでもしたかったからします!!!( 私の推し書いてくれるなんて神ですね愛してます 波瑠ちゃんにとって月奈ちゃんはもう友達でなんなら親友みたいな関係だから絶対略奪的な言葉で表さないのすき 推しの幸せなんてもうにこにこしちゃう海羅くんまで推す 最後致死量の方の伏線も回収してるんだけど海入れるのはしぬじゃん!! もっともっと語りたいけど文字数やばいので読切語りで期待しててね

ユーザー

私の致死量の唯一の気がかりであった波瑠ちゃんが主人公と聞いて見事にくたばりました なるちの月奈ちゃんへの劣等感とか、煌輝くんへの捨てきれない想いとかを全部拭ってくれた海羅くん大好きだよ 酒無理って言ったら麦茶にしてくれるのいい男すぎて婿に入れたい ちゃんと好きを伝えてくれる子が大好きです! あとあと!致死量の方では、打ち寄せての所に波だけだったのに、こっちでは海って付いてるの大好きすぎてしんだ

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