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8月の夜の空気は冷たくて、わたしたちは身体を寄せあいながら眠りについたけど、知らない人のいびきや、慣れない環境のせいで、わたしはなかなか寝つけないでいた。夜空に浮かぶ青白いお月さまを眺めながら、お父さまのことや、ともだちのことを考えだけれど、家族で出かけたハルピンのカフェーの、ふわふわのパンケーキの味を思い出すとお腹がぐうぐうとなってしまって、急に恥ずかしくなったわたしは、ひとり一枚与えられた布切れで顔を覆った。
異変を感じたのはその時だった。
建物自体が、カタカタと揺れ始め、壁に吊り下げられた農機具が重なり合って音を立てる。
外から聞こえる犬の遠吠えと、近づいて来る大きな音は、前に大連の観兵式で聞いたことがあるので、子供のわたしにだって予想はできた。
飛び起きた大人たちは、救いが来たと喜んでいたけど、戦車の音に混ざって聞こえる異国の言葉は、わたしたちを失望させるには充分だった。
石田さんの、
「みなさん!ここから出てください、避難しましょう!静かに、声は出さないでトラックの方へ行ってください!」
という言葉と同時に、わたしたちは行動したけれど、中には泥酔している人もいて、そんな人たちは置き去りにされた。