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そして── 私たちはオーミヤの街の冒険者ギルドへとやってきた。
冒険者の拠点だけあって、建物は大きく、
入り口の扉も立派な両開きだ。
中からは活気のある喧騒が聞こえてくる。
「へぇー……ここが冒険者ギルド」
私が感心していると、エスト様が嬉しそうに言った。
「強そうな人たちがたくさんいるねー?」
「ふむ。そうですな」
辰夫が頷く。
「まぁ私たちより強い冒険者は居ないと思いますけどね」
辰美が自信満々に言った。
*
ギルドの中は、たくさんの冒険者で賑わっていた。
筋骨隆々の戦士、魔法の杖を持った魔法使い、
弓を背負った狩人──
様々な冒険者たちが行き交っている。
私の背中には相変わらず巨大な巻貝が鎮座していて、
すれ違う度に周囲の視線を集めた。
「……ねぇ、あの鬼の人……何背負ってんの?」
「ヤドカリ……だよね?」
「新しい装備か?」
「いや、家だろ。持ち家だ」
視線が痛いが、無視だ。
ドンッ!
壁に殻がぶつかった。
ゴツンッ!
今度は柱だ。
超邪魔だ。
「お!モンスター領主を倒した人たちだ!」
「おー!あの時のキレイな鬼の姉ちゃん!」
「へぇ……あれが……」
ざわざわと冒険者たちが私たちを見ている。
「ふふ……すっかり有名人ね」
私が得意げに言うと、エスト様が無邪気に言った。
「いや殻のせいだよ」
「……黙れ小娘」
*
私は掲示板(クエストボード)に向かった。
辰夫と辰美は受付で登録方法を確認している。
エスト様は冒険者の武器をペタペタ触って遊んでいた。
「へぇ……色んなクエストがあるのね」
依頼書がびっしりと貼られている。
「……高額なのはどれかなっと……」
私は目を凝らして依頼書を見る。
【ゴブリン討伐 → 報酬:5万リフル】
【薬草採取 → 報酬:2万リフル】
【護衛依頼 → 報酬:10万リフル】
「……全然足りない……」
10億の借金を返すには、何年かかるのだろう。
その時──
私の目に、とある依頼書が飛び込んで来た。
ばーん!!(私にはこう見えた)
【魔王討伐 → 報酬:10億リフル】
「……え?」
私は二度見した。
10億。
ちょうど私の借金と同じ額だ。
「んん……?……うーん……?」
私は依頼書と、
はしゃいでいるエスト様を交互に見る。
「エスト様!エスト様!ちょっと来て!」
私がエスト様を呼ぶと、エスト様が駆け寄ってきた。
「ん?なーにー?」
私はエスト様の耳元で小声で確認をする。
「あの……念のため確認だけど、
エスト様は正真正銘、本物の魔王だよね?」
「何をいまさら!あったりまえなのだッ!」
エスト様が堂々と言った。声がデカい。
ざわ…ざわ……
周囲の冒険者たちがざわついた。
「え……魔王って聞こえたけど?」
「え、誰?あの小さい子?」
「いやいや、隣の黒髪の美女だろ」
「……でも殻を背負ってるぞ?」
「うるせぇぇぇ!気のせい!空耳!はい、次!」
私が大声で冒険者を威嚇。
「わたし魔王だよ」
でも、エスト様が台無しにしてくる。
「ちょ!ば!」
私は慌ててエスト様の口を塞ぐ。
ギルド内に再度ざわめきが走った──
……ざわッ!?
「いや、さすがに子供だしな……」
「ふざけてんだろ?」
「鬼の姉ちゃんの方が魔王っぽい」
──が、スルーされた。
危うくギルドで冒険者軍団と戦闘になるところだった。
「……よかった」
私は胸を撫で下ろした。
*
「それより、えっと……エスト様、あのクエスト……」
私は小声で魔王討伐の依頼書を指差した。
「ん?どれど……れ……」
エスト様が依頼書を見た瞬間、固まった。
「ええ……ま、魔王討伐……じゅ、10億……?」
エスト様の顔が青ざめる。
「わたしを倒すと10億!?」
ショックを受けているエスト様。
自分の首に値段がついているのを知るのは、
子供の教育によくない。
でも──
でも、10億だ。
私の借金が、一発で返せる。
私は深呼吸をした。
「それで、どうする?」
私がエスト様を見る。
「え?」
「……あのクエスト……受ける?」
「受けないよ!」
エスト様が即答した。
「あ、ごめん。私の言い方が悪かった」
「は?」
私はエスト様の両肩に手を置き、
ゆっくりと揺さぶりながら諭す。
「……魔王様……?
……どうします?……自首……しますか?」
「しないよ!まだ何も悪いことしてないよ!」
エスト様が慌てて言う。
「ムダ様も言ってたよ?
『可愛い子には旅をさせろ。売却じゃねぇ。栄転だ。泣くな。焼肉はうまい』
って」
「旅……?焼肉……?」
エスト様の眉間にシワ。
「それに私の隣より、国家の厳重な独房の方が安全で快適だよ?
これは人身売買じゃないの。”国費留学”よ。
仲介手数料(10億)は、正当な権利なの。焼肉行くけど」
「やだやだやだ!絶対やだ!」
エスト様が激しく拒否。
私はアヒル口で確認する。
「……10億なのに?」
「つ、捕まったら私はどうなるの?」
エスト様の目が潤む。
「……まぁ魔王だし……
VIPとして高待遇されるんじゃないかな?」
私はアヒル口で雑に答える。
「おやつ付きで。知らんけど」
私は目を逸らした。
「いーや!疑問系ーッ!目を見て言えよ!」
エスト様が叫ぶ。
「……エスト様」
「な、何?」
「……ごめん」
私はジリジリと間合いを詰めた。
「ちょ、お姉ちゃん!?」
「デタナ!マオウ!カカッテコイ!マオウ!」
私が裏声で叫びながら両手を広げる。
「ちょ!ここではシャレにならないからヤメロ!」
エスト様が手足をドタバタさせながら後退する。
「10億……10億……10億……」
私がゾンビのように呟きながら迫る。
ズ……ガン……ズル……ズル……
殻がギルドの椅子にぶつかりながら床を這う。
「お姉ちゃんの目が死んでる!?」
エスト様が悲鳴を上げた。
その時──
「お!何やら楽しそうですな」
辰夫が戻ってきた。
「あはは!ホントあの2人は仲が良いですよねー!」
辰美が楽しそうに言う。
エスト様が泣きながら辰夫の後ろに隠れた。
「エスト様、ごめん……今のは忘れて?
私も忘れる。受けないから。そんなクエスト」
「……ほんとに?」
「……ほんとよ。たぶん」
私は枝毛を気にしながら答えた。
「たぶん!?おい!目を見て言えよ!」
エスト様が憤慨してた。
*
──こうして私は、
泣く泣く一発10億の夢のクエストを諦めた。
地道に働くしかない。
『天の声:当たり前だろ。』
「っさい!!久しぶりだな!」
まずは冒険者登録だ。
「それじゃあ、登録手続きしよう」
私が言うと、辰夫が頷いた。
「了解です。こちらへどうぞ」
私たちは受付へ向かった。
*
その頃──
ギルドの掲示板に新しい張り紙が貼られた。
【注意】
通行の妨げになる大型装備着用者(歩く貝獣含む)は
受付まで申告をお願いします。
私は知らない。何も見てない。
(つづく)
──【今週のムダ様語録】──
『可愛い子には旅をさせろ。
俺の限定スニーカーも、俺の靴箱より、ショップの棚の方が幸せそうだった。
これは売却じゃない。栄転だ。その金で食った焼肉はうまかった。
うまかったからこそ、罪の味がした。美談ってのはだいたい脂っこい』
解説:
「愛ゆえに手放す」という最高の愛。
ムダ様にとって売却は、スニーカーの「栄転」を願う聖なる儀式。
なお、その金で焼肉に行った。