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「モート! モート! ……今、オーゼムさんを呼んだわ! すぐに来てくれるそうよ!」
モートの耳にヘレンの声が鳴り響いた。
激しい頭痛のため床に突っ伏していたモートは、遥か過去の記憶が鮮明のまま意識がしっかりとしてきていた。そういえば今日にオーゼムが来てくれるんだった。それでモートの記憶が完全に戻るはずだった。モートは立ち上がり、カジュアルな服についていた埃を落とした。
「ああ……モート……良かった……ほんとに、大丈夫?」
ヘレンは後ろにいる着飾った人々。貴族の人々をまったく気にせずに、モートに抱き着いてきた。
モートは気恥ずかしくなり、ヘレンを押しのけた。
「恥ずかしいよ……ヘレン」
「え!」
モートは顔を耳まで赤くさせて、サロンの自分が産まれた絵画のところへと歩いて行った。果物の乗ったテーブルの傍で、聖母のような女性が椅子に座り。産まれたばかりの赤子を抱いている姿が描かれていた。その背景は雑木林で空には白い月が浮かび。雑木林の奥からは闇夜の教会が見え隠れしていた。
「母さんは……すごく優しい人だった……」
「……モート……記憶……感情が戻ったの?」
「え? なんだって?」
突然、ドッと笑い声がサロンに溢れかえった。着飾った人々が笑い出したのだ。そして、「今日はもうお開きですな」「ええ……今日はとても楽しかったですわ」「これは、これは……いいものを見せてもらいました」などの声が所々から聞こえて来た。
ヘレンはそれぞれ帰って行く人々を見送るために、仕事に戻った。