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流星の泣き声は、シェアハウスの静かな空気の中でやけに鮮明だった。
普段なら、誰よりも明るく、
誰よりも笑って、
「かわいい〜」と周囲から声をかけられる彼。
その仮面の裏側が、今、真理亜の目の前で崩れようとしていた。
流星:「……ごめんな、真理亜ちゃん。こんなとこ、見せてもうて」
流星は目を腫らしながら、絞り出すように言った。
真理亜:「謝らんでいいよ。……ずっと、しんどかったんやろ?」
真理亜の優しい声に、流星の肩がわずかに震えた。
流星:「俺な……’’かわいい’’って言われんの、ほんまはずっと怖かったんや」
真理亜:「え……?」
流星:「中学のときに、クラスの女子に言われて嬉しかったんや。’’流星くん、かわいい〜’’って。そしたら男子が嫉妬して、急に’’オカマ’’とか’’ぶりっこ’’って言い出してさ。でも、そこで’’やめて’’って言ったら負けやと思って……笑ってごまかした。それがクセになって、ずっと’’かわいい流星’’を演じ続けてきたんや」
静かな告白。
その言葉一つひとつに、真理亜は胸が締めつけられる思いだった。
真理亜:「じゃあ、いまSNSで書かれてること……」
流星:「……ほとんどウソ。でも、ほんの少しはホンマのことや。’’ぶりっこ’’って思われたくなくて、でも周りがそれを求めてくる。どっちに合わせても、誰かが傷つく。ほんまの俺が、どこにおるんか分からんくなってきた」
涙は止まらなかった。
流星は、自分の指でぎゅっと目元を拭う。
流星:「’’かわいい’’って言葉が、もう刃物みたいやねん。笑顔で『ありがと〜』って言うたびに、自分の中がすり減っていくのが分かる」
その言葉に、真理亜も胸が詰まった。
真理亜:「……流星くんは、どんな自分でいたい?」
流星は少しだけ黙って、それからぽつりと言った。
流星:「……普通の男の子、でいたい。’’かわいい’’も’’かっこいい’’もいらん。ただ、好きな服着て、好きな人と笑ってたい。演じんでもええ毎日が欲しい」
それは、彼がずっと言えなかった本音だった。
真理亜:「……それでええんやで」
真理亜は迷いなくそう言った。
真理亜:「流星くんが、流星くんでいるだけで十分素敵やと思う。かわいくても、かっこよくても、笑ってなくても、泣いてても……全部、本当の流星くんやん」
流星の瞳が、潤んだまま真理亜が見つめた。
流星:「……ありがとう」
その駿か、彼のスマホが再び通知音を鳴らした。
真理亜が横目で画面をのぞくと__
そこには、新たな悪質アカウントからのメッセージが表示されていた。
「大西流星は“中学のとき〇〇でこんなことしてた”んやろw 写真付きで流そうか?」
真理亜:「……これ、もう個人情報やん……!」
真理亜はスマホを取り出した。
真理亜:「これ、警察に相談しよう。匿名でも、限度がある。これは脅迫やわ」
流星は驚いた顔をしていたが__
その評定には、少しだけ’’安堵’’が混ざっていた。
流星:「……自分だけやないんやな。味方、いてくれるんやなって、思えてきた」
その言葉に、真理亜はにっこり微笑んだ。
真理亜:「当たり前やん。シェアハウスの仲間やろ?」