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白山小梅
12
#借金
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* * * *
まるであの日の夜のようだった。昴と早紀のことが気になって、なかなか寝付けない。ようやく寝たかと思えば、すぐに目が覚めてしまい、仕方なくカーディガンを羽織ると、カメラとスマホを手にして部屋を出た。
まもなく夜が明ける頃、空が少しずつ明るくなり始める。まだ空気がひんやりとする中、朝露が輝く草むらをゆっくりと歩き出す。
そして何故か足は、早紀が泊まるコテージに向いていた。あのコテージには、七香にとって辛い記憶がたくさん残っている。きっと行っても苦い記憶を思い出すだけなのに、まるで何かに引き寄せられるかのように、一歩一歩踏み締めて歩く。
コテージが近くなってきた頃、またもやデジャヴのような出来事が起こった。コテージの外の椅子に、誰かが座っているのが目に入る。白いTシャツにグレーのスウェット。長い髪を左肩から流し、口元には電子タバコらしきものを吸う早紀がいたのだ。
驚いたのは七香だけではなかった。早紀も同じように目を見開くと、ゆっくりと煙を吐き出した。
「あら、前にもこんなことがあった気がするけど、私の気のせいかしら」
「……さぁ、どうでしたっけ。でも私の記憶が正しければ、あの時はもっと暗かった気がしますけど」
早紀はクスクス笑うと、
「こっちにいらっしゃいよ。せっかくだから話しましょう」
と隣の椅子を指差した。
七香は口をギュッと結んで黙り込む。彼女を目の前にすると、どこを見ても勝ち目のないオーラに圧倒され、萎縮してしまう自分がいた。それでも今の七香は社会人だし、今日はお互いに宿泊者同士という対等な立場であるはず。気持ちを奮い立たせると、気持ちが怯む前に早紀が指差した椅子まで走り、勢いよく腰を下ろした。
心臓はバクバクと大きく動き続け、鼻息は荒くなる。それでも早紀のオーラに負けなかった自分を褒めたかった。
「相変わらず元気ねぇ」
「早紀さんもお元気そうで何よりです」
「……今、言葉に含みを持たせたでしょ」
「……なんのことでしょう」
「まぁいいわ。それで? 昴のことでも考えて、眠れなくなったの? あんな昔に会った男のことなんて、早く忘れなさいよ」
"昔に会った男"という言葉に、早紀との間のズレに気付いた。それは昴が七香との再会を早紀に話していないことを示している。
昴のことだから、早紀に対しては全て筒抜けだと思っていた。しかしそうではなかったことに対して少し驚いた七香は、自分からも話すことをやめた。
「あなた恋人は?」
「……いません」
「やっぱりね。昴のことを引きずって恋が出来ないんでしょ。人生一度きりなんだから、もっと楽しく生きなさい」
彼だけでなく、あなたにもトラウマを植え付けられたんですと言いかけて、グッと堪える。
「……早紀さんは毎日楽しいですか?」
「えぇ、充実してる」
「昴くんと別れても?」
「当たり前じゃない。私たちは体の関係。心の関係じゃないもの。来るものは拒まないけど、去る者は追わないわ」
「……なんか同じことを昴くんから聞いたことがある気がします」
「でしょうね。私たちは似てるから。だから別れ話も、そろそろとは思っていたのよ。最近の昴、セックス中も上の空だったから」
あまりにもはっきりと言うものだから、七香は思わず苦笑いをした。でも一昨日、何年かぶりに彼と交わったが、上の空という感じはしなかった。むしろ集中しすぎて、こちらの話なんて全く聞いてもらえなかった。
「それは……気持ちが良かっただけとか?」
「はぁ。あなた、本当に何も知らないお嬢様なのねぇ。もしかして処女?」
「ち、違います!」
「あらそう。てっきりそうかと思った。へぇ、あなたも大人になったのねぇ」
「あの……昴くんと別れたって……早紀さんから言ったんですか?」
これは大きな問題だった。もし早紀にフラれたのであれば、きっと今頃悲しんでいるに違いない。今すぐ帰って慰めたいと思いつつも、自分はもう友だちではないという思いが、放っておけばいいと突き放す。
「違うわよ。昴に呼び出されたの。それで車で十分くらいかしら、別れ話を切り出されたわけ」
「昴くんから……?」
頭が混乱していた。昴から別れを切り出すなんて、想定外のことだった。彼は早紀を愛している。その気持ちに偽りはないと思っていたのにーー。
「というか、なんでそんなに昴を心配するわけ?」
真実を口にすべきか、話す必要はないのか、自分でも正解が分からず、
「友だちだと思っているので」
と答えた。