テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ねぇ、ずっと聞いてみたかったんだけど、あなたって昴のどこが好きになったの?」
「……寂しがりやなくせして、強がっちゃうところですかね。泣きたいのに泣けない、そんな意地っ張りなところが何故か可愛いく見えちゃうんです」
「……顔じゃないの?」
「顔ですか? 無駄にイケメンですけど、表情の方が気になるかもしれません」
「ふーん……高校生でそこまで察することが出来るのねぇ」
ドキッとした。実はあれから再会して、今は隣に住んでいるとは言えなかった。
早紀は空を見上げると、ふうっと息を吐いた。
「私ね、あなたのこと、アイドルの追っかけみたいだなって思ってたの」
「追っかけ、ですか? なんか唐突過ぎてびっくりです」
「まぁね。私、嫌いなのよ。たかがファンの一人のくせして、アイドルの行動一つ一つに口を出して騒ぎ立てるじゃない。熱愛報道が出たらまるで自分のものみたいに騒いで。自分は恋人を作って結婚もするくせに、推しにはそれを認めないなんて自分勝手すぎると思わない?」
やや語気が荒くなかった早紀を、きょとんとした目で見ながら、七香は首を傾げた。
「つまり私が、昴くんの行動に口を出すような人間に見えたってことですか?」
「だってあなた、昴のことイケメンだって認めたんでしょ? それで私に喰ってかかってきたんじゃないの?」
そんなふうに見られていたことに驚きを隠せなかったが、同時に納得したものもあった。
「あぁ、だから私のことを見下した目でみていたんですね」
「あら、バレてた?」
「えぇ、ひしひしと。でも早紀さん、少し間違えていると思います」
「どこが違うのよ」
「みんな推しに人気になってほしくて、一生懸命貢いでいるんです」
「貢ぐって、ホストクラブじゃあるまいし」
呆れたように眉根を寄せた早紀に、七香は人差し指を左右に動かした。
「早紀さん、それは違います。たくさんCDを買って、高いライブチケットを購入して会いに行く。それにグッズだって高いけど、推しのものは全種類欲しくなる。それだけ推しのために心もお金も使ってるんです。確かにアイドルだって一人の人間、幸せになって欲しい。でもこんなに私が愛してるのに、自分以外の人のものにはなって欲しくない……難しいけど、それだけ応援する側だって真剣なんです」
「あら、まるで自分もそうみたいじゃない」
「昴くんにですか? だとしたら私はお金を使わないファンですから、そこまで熱心にはなりません。でも……もしかしたら昴くんはそちら側かもしれませんね。手が届かないけど、自分のものにはならないけど、ずっと早紀さんを愛し続けてる。その姿がね、すごく可愛いんです。だから私、早紀さんを好きな昴くんを含めて、彼が愛おしいんだと思います」
「……変ね、まるで今の昴を知ってるみたいな言い方に聞こえる」
思わず両手で口元を押さえて、視線を逸らした。それから暫しの沈黙が流れたため、七香の体に緊張感が走る。
「ふーん……まぁいいわ。それにしたって、あなたって、変な子ね」
「えぇっ、いきなりなんですか!」
「だってそうじゃない。普通は違う女を好きで、体の関係だって持ってるような男は嫌じゃない? 生理的に受け付けないとか思わない?」
そのことは自分でも不思議だった。昴に対してはそれを感じないのだ。
白山小梅
12
#借金
「生理的に受け付けないとかはないですね。たぶん早紀さんがいてもいいから好きだって思って始まったので、それが当たり前になっちゃってるというか……。スタートからおかしかったんです。きっと恋……というか、それも通り越して愛なんじゃないかな。男女ではなく、人としての愛です。彼のそばにいるだけで楽しいから」
昴を想うだけで、一緒にいるだけで、満たされてしまう。
「一緒にいるだけで楽しいって、確かにそういう気持ちって大事かもしれない。私はだいぶ前にその感情から逃げたから」
どこか寂しげな表情になった早紀は、そっと目を伏せた。
「……どういうことですか?」
「……私ね、若い時に一度結婚してるの。学生の頃から付き合っていた人で、大好きだった。ずっと一緒にいたくて結婚したのに、仕事を頑張りたいっていう欲も出てきたのね。だけど仕事にのめり込む私に、彼は『仕事をやめろ』って言ってきたの。そこから気持ちがすれ違って、修復不可能。結婚して三年で離婚したわ。結婚したらまた仕事に対して口を出されるかもしれないと思ったら、もう恋愛とか面倒だなって思って。だから性欲だけ満たしてくれる人がいれば、それだけでいいって思ってた」
「昴くんには聞かせられないですね」
「あの子もわかってるわよ。これだけ長く関わっていれば。私との未来に希望はないわ。停滞か、後退するかのどちらかしかないから」
彼はこの話を知っているのだろうかーーいや、きっと知らない。この人は自分を強く見せて生き抜いてきたのだ。自分のイメージを傷つけるようなことを、簡単には話したりしないだろう。
だとしたら、彼女が本当の自分でいられる場所があるのかが心配になる。
「……早紀さんは誰かといたいとは思わないんですか?」
「思わない。だって面倒だもの。私は自分が一番だから、これからも好き勝手して生きていく。でも昴は……欲が出てきたみたい」
「欲ですか?」
「えぇ。だから完全に訣別。もう会わないって言われたわ」
「……昴くんは、早紀さんあっての昴くんなのに……」
出会ってからずっと、昴は早紀を思い続けていた。早紀のいない世界に住む昴なんて知らないし、彼が何を思ってそんな行動をしたのか理解出来なかった。