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正直、こんな自分、嫌いだ。
「照、今日めっちゃ機嫌いいじゃん!」
楽屋に響く声。
顔を上げると、照が楽しそうに笑っていた。
隣には、メンバー。
肩を組んで、顔を近づけて、何がそんなに面白いのか、二人でずっと笑ってる。
……いいな。
ぽつん、と心の中で呟いた。
別に、いいんだよ。
照がメンバーと仲良くするのなんて、いつものことだし。俺だってみんなと仲いいし。
そんなの、わかってる。
わかってるのに。
「……亮平?」
「っ、なに?」
突然名前を呼ばれて、顔を上げる。
照がこっちを見ていた。
「どうした? ぼーっとして」
「んーん、なんでもないよ」
にこっと笑う。
得意なんだ、こういうの。
本当の気持ちを隠して、いつもどおりに笑うこと。
照は少しだけ不思議そうな顔をしたけど、すぐにまた隣のメンバーに呼ばれて、そっちを向いてしまった。
……あ。
また、そっち。
胸の奥が、ちくっと痛んだ。
馬鹿みたい。
恋人なんだから、もっと余裕を持てばいいのに。
照が誰と話してたって、誰と笑ってたって、俺が一番近くにいるって信じてればいいのに。
でも。
俺が知らない照の顔を、ほかの人が知ってるのが嫌だった。
俺以外の人に、そんなふうに笑わないでよ。
……なんて。
言えるわけ、ないじゃん。
「亮平、帰ろ」
仕事が終わって、照が俺のところに来た。
「うん」
いつもどおりに荷物を持って、いつもどおりに隣を歩く。
でも、今日は手を繋がなかった。
いつもなら照のほうから繋いでくるのに。
……さっき、いっぱい触れ合ってたもんね。
俺じゃなくても、足りてるのかな。
「亮平」
「ん?」
「手」
照が手を差し出してきた。
「……なに?」
「繋がないの?」
その言い方が、いつもどおり優しくて。
だから余計に、苦しくなった。
「……別に、いいよ」
口にしてから、しまった、と思った。
照の足が止まる。
「……なんで?」
「なんでもない」
「亮平」
「ほんとになんでもないってば」
少しだけ強い声が出た。
照は黙った。
その沈黙が怖くて、俺は先に歩き出した。
お願いだから、追いかけてこないで。
……ううん。
嘘。
追いかけてきて。
俺のこと、ちゃんと見てよ。
家に帰ってからも、俺はずっと変だった。
ソファに座って、スマホをいじるふりをする。
照は隣に座ったけど、何も言わなかった。
気まずい。
自分でこうしたくせに、どうしたらいいのかわからない。
「……亮平」
「んー?」
「こっち向いて」
「やだ」
……あ。
まただ。
なんで、こんなこと言っちゃうんだろう。
照が小さく息を吐いた。
「俺、なんかした?」
その声が、思っていたよりも寂しそうで。
胸がぎゅっとなった。
「……してないよ」
「じゃあ、なんで怒ってんの?」
「怒ってない」
「……じゃあ、なんでそんな顔してんの」
そんな顔。
どんな顔?
自分じゃわからない。
でも、照にだけは見抜かれたくなかった。
だって、こんなの。
ただのわがままだ。
「……照はさ」
気づいたら、口が動いていた。
「俺がいなくても、楽しそうだよね」
照が黙った。
ああ、言っちゃった。
「……今日、みんなとすごい楽しそうだったから」
視線を落とす。
「別に、いいんだけどね。メンバーだし、仲いいのはいいことだし。俺だって、そんなのわかってるし……」
言い訳みたいに言葉を重ねる。
「でも、なんか……」
喉が詰まった。
情けない。
こんなことで嫉妬して。
こんなことで寂しくなって。
「……俺だけ見てほしいなって、思っちゃった」
最後は、ほとんど聞こえないくらい小さな声だった。
もう、顔なんて見られない。
嫌われたかな。
面倒くさいって思われたかな。
そう考えていたら。
ふわっと、身体が包まれた。
「……え?」
「亮平」
照の腕だった。
ぎゅうっと抱きしめられて、肩に顔を埋められる。
「……ごめん」
「……なんで、照が謝るの」
「寂しくさせた」
その一言に、涙が出そうになった。
「……別に、照は悪くないよ」
「ううん。亮平が寂しかったなら、ちゃんと聞きたい」
優しい声。
ずるい。
そんなふうに言われたら、もっと甘えたくなっちゃうじゃん。
「……俺、めんどくさい?」
恐る恐る聞いた。
すると照は、少し身体を離して、俺の顔を覗き込んだ。
「は?」
「だって、こんなことで嫉妬して……」
「亮平」
照の手が、俺の頬に触れる 。
「俺が誰を好きだと思ってんの?」
「……俺?」
「そうだよ」
当たり前みたいに言うから。
余計に、涙がこぼれそうになった。
「今日、ずっと亮平のこと気にしてたんだよ。なんか元気ないし、目も合わせてくれないし」
「……だって」
「うん」
「……照が、俺のこと見てくれないから」
言った瞬間、照が困ったように笑った。
それから、俺の額にこつんと自分の額を合わせる。
「……ごめんね」
「……うん」
「でもさ」
照の親指が、俺の頬をそっと撫でた。
「俺、亮平が思ってるより、ずっと亮平のことばっか考えてるよ」
「……ほんと?」
「ほんと。今だって、どうやったら亮平が笑ってくれるかなって考えてる」
……なにそれ。
ずるすぎる。
「……ばか」
「うん」
「……照のばか」
「うん、ごめん」
何度も謝りながら、照は俺を抱きしめてくれる。
その腕があったかくて。
ずっと欲しかったものが、やっと戻ってきた気がした。
「……ねえ、照」
「ん?」
「今日は、いっぱいくっついてていい?」
言ってから、恥ずかしくなった。
でも照は、嬉しそうに笑った。
「……もちろん」
そう言って、俺の身体を自分の膝の上に引き寄せる。
「ちょ、照!?」
「なに? もっと近くがいいんでしょ?」
「……っ、そうだけど!」
「はいはい」
からかうように笑って、照は俺の髪にキスを落とした。
悔しい。
全部、見透かされてる。
でも。
「……照」
「ん?」
「……好き」
小さく呟くと、照は俺を抱きしめる腕に力を込めた。
「俺も好きだよ、亮平」
耳元で囁かれる。
「……亮平だけ」
その言葉が嬉しくて、俺は照の胸に顔を埋めた。
……明日からは、ちゃんと素直になろう。
嫉妬したら、寂しいって言おう。
照に、俺だけを見てなんて。
そんなわがままも、たまには言ってみよう。
だって。
俺だって、照の一番近くにいたいんだもん。
……俺だけを見てよ。
なんて、今はもう。
言わなくても、いいのかもしれない。
照の腕の中で、俺はそっと目を閉じた。
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