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「あった! あったよ。ミオミオ!」
「ほんとか!? お前、本当に目がいいな。この距離じゃ見えねえ」
「でも、あったんだって! 今年もおんなじクラス~やったあ! 修学旅行も一緒に行ける~!」
春――桜が満開に咲き、日差しが温かく降り注ぐこの季節は始まりの季節でもある。
俺、高嶺澪は今年も幼馴染みの颯佐空と同じクラスになれた。六組まであるのに毎年同じクラスとは本当に運がいい。
クラスと名前が記載された張り紙の前にはそれはもう、うじゃうじゃと人が集まっておりこの距離じゃ自分の名前何て確認しようがなかった。だが、目のいい空は俺と自分の名前を見つけ俺に教えてくれた。そして、喜びをそのままダイレクトに俺の身体にぶつけてくる。
自分の目で見ていないのでまだ真実かどうかは確かめようがないが、それでも空の言うことを信じることにした。彼奴が見間違うはずねえと。
「つか、修学旅行って気ぃ早すぎじゃね?」
「だって他県への旅行だよ? 中学校一番の行事だよ?」
「いや、高校でもあるだろうが……きっと」
子供のようにはしゃぐ(いや実際子供なのだが)空を見ていると自然と笑みが零れた。
まあ確かに楽しみじゃないわけじゃない。どっちかというと楽しみで、今から待ち遠しい。それを表に出さないのは、俺が空よりも大人だと彼奴にアピールしたかったからだ。こんなことアピールして何になるという話だが、俺は頼れる男、理性的な男としてみて欲しかった。
(空、また髪の毛伸びたか?)
他の同級生の名前探しに夢中になっている空を俺はじっと見つめていた。俺の視線なんて気にならないぐらい熱心に探している空は、俺の事なんて「ただの幼馴染み」としか思っていないんだろうなと思う。
(いや、まだ恋って決まったわけじゃねぇし!)
俺は首を横に振る。
恋――――
そう言って良いのか分からない淡いものだった。淡い、と言うよりかは曖昧で親友としての好きなのか、恋愛対象としての好きなのか分からなかったのだ。ただ、一緒にいるうちに一緒にいるのが当たり前になって、でも彼奴が他の奴といるとモヤモヤしてしまって。気づいたらずっと空を目で追っていた。
本当は、一緒のクラスになれたことが馬鹿みたいに嬉しくて俺の方から抱き付きたかったくらいで。
(それでも、来年は一緒じゃないんだろうなとか思っちまう。彼奴は、パイロット目指してるんだし)
家は向かい同士、幼稚園小学中学校と同じだったが、空はずっと昔からパイロットを目指していた。俺達の住んでいる双馬市にはそんなパイロットを目指せる高校がある為、空はきっとそこに進学する。俺はそんな金もないし、有名な私立高校からスポーツ推薦で声がかかっているためそっちに行こうと考えている。だから、高校からは別々の道を歩むことになるのだ。
だから、今年が空と一緒にいられる最後の年。
「ミオミオ! 教室行こう!」
「おう。で? 知ってる奴の名前あったかよ」
「あった、あった。ミオミオの名前は見間違いじゃなかったよ」
と、白い歯を見せてニカッと笑うとさらに幼く見える空を見て俺は小さく息を吐いた。この笑顔が自分だけのものにならねえかなあ何て考えて。
今の関係が壊れるのが怖くて何も言えない。
なら、親友という大きなポジションにどかっと居続ける方がいいのではないかと、そっちの方が幸せだと俺は思う。
「あ~後は担任! いい先生だといいなぁ。初任の先生では絶対ないけど、何か美人の先生が入ってくるって噂で」
「ほ~美人の先生ね」
「興味ない?」
「胸がデカけりゃな」
「わぁ、セクハラ~」
空は俺の言葉を聞いてケタケタと笑った。俺も自分で言っていて笑えてきたが、矢っ張り女が好きだよなあと、少しテンションが下がってしまう。
そんな俺を見てか、先ほどの発言に俺が気を悪くしたのかと思ったのか、空が不安げに俺を見上げてきた。わざと下から覗いてくる辺り、少し後ろめたいと思っているのだろう。
「あぁ?」
「ガラ悪。ああ、じゃなくて……そーだよね。ミオミオのお姉さん美人だもんね。美人見慣れてるかあ、そっか」
「何一人で納得してんだよ。つか、姉はそういう対象に入らねえだろ。下着で家の中歩く奴に誰が美人とか思うかってんだ」
「うらやま~」
そう言って空はによによと笑ってきた。俺が姉ちゃんに尻に敷かれていることを知っているからだろうか。少し馬鹿にしているんだろう。
それに少し腹が立って、俺は空の頭を軽く殴った。
「うっ、いったあ~今年度初めてのミオミオのげんこつ」
「アホなこと言ってねえで行くぞ。荷物置きてえし」
「りょ、りょ~」
と、パタパタと歩き出す空。
「おい待てよ。足だけは速いんだよなぁ」
「陸上部高飛びエースのミオミオには言われたくありませ~ん」
「廊下走って怒られんなよ」
「その時はミオミオ道連れね」
そう、空は振返って俺に笑顔を向けた。