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「出席して下さいと言われているはずですが。これは、お願いではなくて、命令です。皇帝陛下直々の命令です」

「……いかなきゃ駄目なの?」

「貴方はそのためにここに呼ばれたんですよ。責任を果たして下さい」

「責任って何よ」




責任って一体何を果たせばいいのだろうか。私がいっても、除け者扱いされるし、めでたい席に悪女、偽物と呼ばれる私が出席したらそれこそ場が最悪になってしまうのではないかと思う。何でそんなめでたい席に私を呼ぶのか。これも私への嫌がらせか、そして、リースへの嫌がらせか。兎に角、皇帝陛下は人の心がないんじゃないかと思った。息子の席で、息子が愛した元恋人を呼びつけるなんて、本当に人の心がないと思う。

そして、人の心がないのは、皇帝だけではなくて、エルもそうだった。


私が、部屋でうずくまっていれば、早くたてとまた急かしてきたのだ。パーティーまでにあと二時間しか無い。だから、仕方なく準備をするから立てというのだ。さすがにこんな布きれでパーティーに参加できるはずもない。というか、この服だったら私も参加したくない。

ドレスは基本一人で切られないものが多いからエルに手伝って貰うんだけど、エルは私のことが嫌い。でも、今回は仕方ないんだと言わんばかりに私を見てくるのだ。確かにそうなんだけど、私も嫌だ。

さっきのリースとトワイライトの姿を見てしまってから、私は自己肯定感がグンと下に落ちた。もう底辺だ。これ以上いったら死んでしまうくらいに。でもそんなこと、エルが理解してくれるはずもなく、彼女は駄々をこねるなだけ私にがみがみと言ってくる。




「参加しなければならないのに、何故貴方は参加しないのですか」

「参加したくないからよ。それくらい分かるでしょ」

「皇帝陛下の命令に背けばただではすみませんよ」

「じゃあ、どうなるのよ。その命令に背いたら」

「死刑じゃないですか」

「そんなのあってたまるもんですか」




命令に背いただけで死刑って、あまりにも罪が重すぎる。もっと謹慎とか……でも国外追放も嫌だし。なんて色々思ったけれど、正直どうでもよかった。今日が終わったとして私が解放される確率は極めて低い。私がどうなるかも、皇帝の気分次第といったところだろう。そんな人の気分で裁かれたくはないのだけど。




(でも……最後の別れを言うくらい……いいのかな)




そもそも、リースに近づけるかすら分からない。私が近付いたら、何人もの騎士が私を取り押さえるかも知れない。だったら私は会場の隅で、一人寂しく祝っていればいいのだろうか。それって参加していることになるのだろうか。

ぐるぐるといきたくない、行かなくていい理由を考えたがちっとも思い浮かばなかった。だから、もういくしかないと、身体が拒絶反応を起こしていても、頭が諦めていた。諦めるな! といいたいけれど、そんな余裕もない。




「ほら、準備するので立って下さい。私も暇じゃないので」

「私の監視は、皆がしているんでしょ。なら、エルがサボっても誰も怒らないわよ。どうせ、私が何かやらかしたら、ころされるんでしょ。だったら私は何もしないから」

「そういう問題ではないので。というか、私は、会場で飲み物を配らないといけないんですよ。貴方と違ってひまではないのです」

「暇って……暇をさせているのは、アンタ達でしょうが」




私はそう言い返したけど、理屈の通らないこの言葉に自分でも呆れてしまった。暇というか、暇を持て余すしかないというか。兎に角、暇なんではなくて、監視されていて、部屋に何もなくて何もすることがないから暇なのだ。そこの所をエルは分かっているんだろうけど、皮肉っている。




「腹の中で、嫉妬を煮えたぎらせていればいいでしょう。それを爆発させなければ誰も怒ったりはしません」

「本当に酷いこと言うんだね、エルって」

「貴方が、嫉妬しているのは誰が見ても分かるのでは?恋人をとられて聖女に嫉妬している偽物という風にしか見えませんが」

「……」

「ああすみませんでした。元恋人ですね。儀式は済んだので、もう貴方が手を出せる開いてじゃないんですよ。皇太子殿下は。二日後に皇位継承式が行われますから」

「え……」

「知らなかったんですか」

「教えて貰っていないから、そりゃ知るはずないでしょ……でも、そうなんだ」




エルから新情報を得て、私は何だかふっと心の中に落ちた気がした。

リースが皇帝になるということ。確かに、ゲームではエンディング後に皇位を譲り受けて……と描いてあったけど、それっきりだったから、どんな風に譲り受けて皇帝になって未来を築いていったかは分からなかった。それで、その皇位継承式が二日後にあると。




(でも、私は見えないんだよね……)




明日の生活ですら分からないのに、二日後のことなんて考えられなかった。でも、リースが皇帝になるんだというその情報だけで生きていけるような気がしたのだ。リースが皇帝になれば、この帝国が変わるかも知れない。そして、それをトワイライトが支えるのだからきっといい帝国になるだろうって私は思っている。リースが理想としたことを。

もしそこに、アルベドの理想が少しでも組み込まれればな、とかも思ったけれど、リースがそこまで気を配ってくれるか分からない。だって、リースだって忙しいから。




「ふふ……」

「何笑っているんですか、気持ち悪いですね」

「酷いなあ。嬉しいの。リースが皇帝になるんだって思ったら」

「貴方に未来はありませんが?」

「確かにさ、二日後どうなっているか分からないけどさ、リースが皇帝の座についたら、この帝国が今よりももっとよくなるんじゃないかなって思ってイルの。それが嬉しくて」

「……そう簡単に人は変わらないと思いますが。勝手に大きな政策をして失敗するという話はよく聞くでしょう」

「未来の皇帝を侮辱するの?」

「いえ、事実なので。実際、今の皇帝ですら、反対されたことがあるので」

「何を……」

「それは、歴史を遡ってみてみて下さい」




と、エルはいって顔を背けた。歴史を遡ってみてくれといわれても、私がいる部屋にそんな歴史書はないし、私が図書館の出入りを許されるわけがないだろう。でも、皇帝がしようとして失敗した策とはどんな政策なのか気になるところだった。どうせ、エルは教えてくれないだろうけど。




「無駄話はここら辺にして、本気で準備に取りかからないと、貴方そのままで出ることになりますよ?」

「エルが全部やってくれるの?」

「私しかやる人がいないでしょう。全く、嫌いな奴の世話なんてしたくもないのに」

「嫌い?」

「ええ、嫌いです。嫌いといいました。私は貴方が嫌いです」




そうはっきり言ってエルは私の髪の毛を引っ張った。ブチブチと何本か抜ける音がして、私は小さな悲鳴を上げる。




「いいいい、痛い、痛いってエル。分かった準備するから。アンタが私のこと嫌いって分かったから」

「分かったならいいです。もうその質問はしないで下さい」

「立場本当に逆転してるよね」

「だから何度も言わせないで下さい。私は貴方のメイドじゃないので」

「分かっているけど……」




それにしても、毎回私の扱いが酷いのはいただけないなと思った。さすがに友達でも、他人でもここまでしないだろう。なんで彼女が私のことをそんなに嫌いなのか、その理由さえ分かれば、治せると思っているのに。それすら教えてくれないのだろう。

私は、彼女に黙って付き従うことにして、鏡の前に座った。彼女は部屋を離れ、暫くしてドレスを持って帰ってきた。手には、白とオレンジ、そして黄色のドレスが掛かっていた。一着だけ。




「選ばせて貰えないの?」

「寧ろ、選ぶ権利があるとでも思っているんですか」

「エル……」

「これを着ろとの命令です」

「本当に命令なの!?もしかして、皇帝陛下の趣味、とか」

「近いうちに首を切り落とされそうですね」




と、エルは毒はいた。私は、冗談だよ、と軽く受け流しつつ、よくこの色を見るなあ、といつの日か着ていたドレスのことを思い出していた。しっかりとオレンジの花がデザインされていて、ラスター帝国の花、と再認識させられる。リースにオレンジの花言葉を聞いているからこそ、この花がついたドレスを着るのは場違いなんじゃないかと思った。それを、皇帝は知ってか知らずか着せている。いや、知って着せようとしているのではないかと。罰当たりな。でも、私に拒否権はないので、黙って着るしかない。きっと会場内では、酷い目で見られるんだろうなと思う。主役は私じゃないのに。




(……でも、素敵なデザイン……)




スリっとドレスに触れれば、汚い手で触らないで下さいと、エルに叩き下ろされてしまった。私は叩かれた手を掴みながら、それなら早く準備をしようと、今度は私が急かしてみた。やられっぱなしじゃ終われない。

エルは、私の態度が気にくわないのか、また大きな舌打ちを鳴らして、服を脱げと命令してきた。本当に対等な立場じゃないと胸が痛くなる。エルに心を開いたり、遠ざかったり、私も忙しいな、と思いながら、彼女に言われるがまま服を脱ぎ、ドレスを着せて貰い、あっという間に髪の毛もセットしてくれた。けれど、一人でやっているから、かなり時間はかかったようだった。誰も私の手伝いなんてしてくれないんだろう。




「はい、出来ました」

「嫌そうね……でも、うん。凄くいい、可愛い」

「自分でいいますか?」




エルに毒は吐かれたが、可愛いと思ったのは事実だ。こんなドレスを着るのは最後かも知れないけれど……と思いながら、私はもう一度鏡の前で笑ってみせた。リースに暗い顔なんて向けられないから。




「よし……っ」


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