テラーノベル
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あおっちӦ(あおあお)
191
タイナ
30
#シェドレツキー
ビルダーマンとドゥームブリンガー。
二人と過ごす毎日は、テラモンにとって妙に騒がしく、妙に平和で、そして――思っていた以上に心地よかった。
神として長い孤独を生きてきたテラモンにとって、誰かと笑い合うという感覚は、どこか新鮮だった。
だが。
そんな穏やかな日々の裏側には、決して消えることのない「影」があった。
最高神――Roblox。
この世界そのものを創り出し、すべてのコードと理を統べる絶対的な存在。
世界を書き換えることも、法則を変更することも、神々を生み出すこともできる。
そして何より。
最高神がその気になれば――テラモンという存在そのものを、指先ひとつで消去できる。
「……BAN、か」
夜。
ひとりになったテラモンは、暗い部屋の中でぼんやりと呟いた。
(もし……私が最高神の意にそぐわない存在だと判断されたら?)
(もし、この平和な日常ごと……消されることになったら?)
考えれば考えるほど、胸の奥が重くなっていく。
ビルダーマンと笑う。
ドゥームブリンガーとくだらないことで騒ぐ。
そんな時間が増えれば増えるほど。
「失いたくない」という感情も、同じだけ膨らんでいった。
そして、その感情の裏側には。
神である自分が決して認めたくない、恐怖があった。
死への恐怖。
存在が消えることへの恐怖。
そして。
「私が消えるくらいなら、世界そのものを壊してやる」
そんな傲慢さと、抑圧され続けていた絶対的な悪意。
それらが絡み合い、テラモンの中でひとつの異物へと変わっていった。
「……っ」
ある夜。
テラモンは自室で胸元を押さえた。
「ぐっ……あ……っ!」
ズキンッ!!
胸の奥が焼けるように痛む。
呼吸が乱れる。
黒いローブを握りしめる指先が震えた。
「な……なんだ、これは……」
ローブの裾から。
ドロリ。
黒い何かが流れ出した。
それはただの闇ではなかった。
漆黒と毒々しい緑。
まるでテラモンの内側から吐き出された、感情そのもののようだった。
それは床へ集まり。
渦を巻き。
やがてひとつの形を作っていく。
「……卵?」
床に転がっていたのは、不吉な紋様が幾重にも刻まれた巨大な卵だった。
テラモンは息を整えながら、その卵を見つめた。
「私の中から……これが?」
答えが返ってくるはずもない。
しかし。
ピシッ。
「……?」
卵の表面に、一本の亀裂が走った。
ピシ……ピシピシ……。
「おいおい……」
そして。
パリンッ!!
殻が弾け飛んだ。
その瞬間。
部屋いっぱいに濃緑色の炎が噴き上がった。
黒い煙。
緑のエーテル。
そして――生々しい悪意。
その中心から、何かがゆっくりと姿を現した。
小さい。
だが。
明らかに普通ではない。
頭には緑色のドミノ・クラウン。
その中央には、鮮烈な緑色の「X」。
顔には、凶暴な赤い瞳。
そして身体は――。
毒液を固めたかのような、半透明の鮮やかな緑色。
その内部には真っ黒な肋骨と骨格が透けて見えていた。
黒と緑の炎が全身からゆらゆらと立ち上り、見る者に本能的な恐怖を与える。
テラモンは、思わず息を呑んだ。
「……お前は、一体……」
恐る恐る手を伸ばす。
その瞬間。
バシッ!!
「触るな!!」
手を思い切り弾かれた。
「近寄るんじゃねぇ、このバカテラモン!!」
「……!?」
生まれたばかりとは思えない、鋭い声。
赤い目がテラモンを睨みつける。
「俺は1x1x1x1だ!」
小さな身体を震わせながら、1x1x1x1は叫んだ。
「お前の中に溜まってた、醜い恐怖とか、傲慢さとか、そういうクソみたいな感情から生まれてやったんだよ!」
「…………」
「だから勘違いすんな!」
1x1x1x1はテラモンを指差した。
「俺はお前のことなんか、大っ嫌いだからな!!」
「ほう」
「神のくせに最高神にビビって、人間なんかと仲良くして……反吐が出るぜ!」
そう言い放つと、1x1x1x1はプイッと横を向いた。
「…………」
だが。
小さな肩が、ほんのわずかに震えている。
テラモンはそれを見逃さなかった。
さらに。
チラッ。
赤い目がこちらを見る。
テラモンと目が合う。
「…………」
サッ。
慌てて逸らす。
数秒後。
チラッ。
また見る。
「…………」
「……ふふ」
「何笑ってんだよ!!」
「いや?」
テラモンは口元を緩めた。
(嫌いと言いながら……私の反応ばかり気にしているではないか)
この小さな存在は、自分の中から生まれた悪意。
自分が抱えていた恐怖。
そして、自分が認めたくなかった弱さ。
そのすべてを形にした存在なのだろう。
ならば。
テラモンは静かに立ち上がった。
そして、自分の肩にかかっていた鮮やかな赤いケープを外す。
「おい」
1x1x1x1が振り返る。
「何する気だよ」
テラモンは答えず、そのまま近づいた。
「ちょっ、おい!」
ふわり。
赤いケープが、小さな肩へ掛けられた。
「な……」
1x1x1x1が固まる。
「……骨が丸見えじゃないか」
「は?」
「寒そうだ」
「寒くねぇよ!」
「そうか?」
「そうだよ!!」
「しかし、格好がつかんだろう」
「余計なお世話だ!!」
1x1x1x1は必死にケープを振り払おうとする。
「誰がこんなダサい布切れなんか……!」
だが。
ふと、動きが止まった。
赤いケープから伝わる、わずかな温もり。
そこにはテラモンの神力が微かに残っていた。
黒と緑の炎が、少しだけ穏やかになる。
1x1x1x1は黙った。
そして。
小さな手で。
ギュッ。
ケープの端を握った。
「…………」
「気に入ったか?」
「違う!!」
即答だった。
「捨てるのも勿体ねぇから着てやってるだけだ!!」
「そうか」
「勘違いするなよ!?」
「うんうん」
「俺はお前を絶対許さないからな!!」
「はいはい」
「いつか絶対、お前の喉元を噛み切ってやる!!」
「楽しみにしているよ」
「……むかつく!!」
1x1x1x1は頬を膨らませた。
テラモンがそっと手を伸ばす。
「では、頭でも――」
「気安く触るな!!」
シュッ!
1x1x1x1は素早く後ろへ飛び退いた。
「…………」
しかし。
赤い目は、やっぱりテラモンから離れない。
見てほしい。
自分だけを認めてほしい。
自分を生み出した、この神の視線を。
誰にも渡したくない。
そんな感情が、小さな身体から滲み出ていた。
口から出てくるのは罵声ばかり。
だが。
全身を包む濃緑色の炎は、どこか寂しそうに揺れている。
「……おい、テラモン」
「ん?」
1x1x1x1は赤いケープに顔を半分埋めた。
しばらく黙ったあと。
小さな声で呟く。
「……明日も」
「うん?」
「明日も……ここに居てやるからな」
「…………」
「お前が泣いて頼むなら……一緒にいてやってもいいぞ」
「そうか」
「べ、別に一人でいるのが寂しいわけじゃねぇからな!!」
「分かっているよ」
「……じゃあな!!」
ボッ!!
黒と緑の炎が一気に燃え上がる。
1x1x1x1はそのまま部屋の隅へ駆け込み、影の中へ姿を消した。
最後まで。
赤い目だけは、テラモンを見つめていた。
「…………」
静かになった部屋。
テラモンは胸元に手を当てる。
さっきまで焼けるように痛かった胸の奥が――いつの間にか、すっかり静かになっていた。
「……ふふ」
テラモンは小さく笑った。
自分の恐怖から生まれた、小さな悪意。
自分を嫌いだと言いながら、離れようとしない影。
「……随分と、面倒な子が生まれたものだ」
影の奥から、声が飛んでくる。
「聞こえてんぞ!!」
「おや」
「誰が面倒だ!!」
「はいはい」
「あと、その『はいはい』やめろ!!」
「ふふふ……」
テラモンはまた笑った。
孤独だった部屋に、声がある。
自分を罵る声。
自分を睨む視線。
それなのに、不思議と心は温かかった。
こうして。
混沌の神テラモンのもとに、新たな「家族」が生まれた。
本人は絶対に認めないだろうが。
それは――。
誰よりも寂しがり屋で。
誰よりもテラモンに構ってほしくて。
そして誰よりも素直じゃない。
「ツンデレな影」だった。
「……明日も来るからな」
影の奥から、小さな声が聞こえた。
テラモンは微笑む。
「待っているよ、1x1x1x1」
「……っ!」
影の中で、緑色の炎がほんの少しだけ嬉しそうに揺れた。
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