第9話:世界警察(WPA)
──「またこの名前です。3件目、カナダでも使用が確認されました」
 WPA(ワールド・パブリック・アナリティクス)の監視室。
スクリーンに映るのは、各国のデータベースに点在する“同じ名義”。
 「フルネーム、アバター、初期レビュー文」まですべて一致。
けれど、その名義が使用された国は──5か国に及んでいた。
 捜査官のノエルは、無表情に指を動かす。
肩まである茶のウェーブ髪をかきあげ、口元だけが少し動いた。
 「元の持ち主、特定できる?」
 助手のレンがうなずく。
 「はい。日本人、アライ・ケイ。
NaPoint登録は4年前。……でも」
 「でも?」
 「死亡届、出てます。2年前に」
 室内の空気が、ぴしりと張る。
ノエルの視線が止まるのは、パリ、クアラルンプール、東京、ニューヨークの使用ログ。
 それぞれ別の端末、別の言語で投稿されたレビュー。
でも、同じ“名前”だった。
 「……これってさ、生きてるより、生きてるよね」
 レンのつぶやきに、ノエルは応えない。
 ただ、モニターの中でまたひとつ、
“アライ・ケイ”の投稿が増えていた。
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 評価:★★★★★







