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眠狂四郎
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#戦国時代
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アントンは大きく広げられた地図を前に立っていた。
机いっぱいに描かれた海岸線と都市名を指でなぞりながら、
陸軍大将カニデス、海軍大将ガイロ、そして親衛隊長バルブスへ視線を向ける。
「歩兵二十万は全土へ展開する。」
静かな口調だった。
「敵が上陸すると予想される沿岸都市へ十万を分散配置する。」
その言葉に、カニデスが眉をひそめる。
「広げすぎではありませんか。」
彼は地図の前へ歩み出た。
「前線都市アポロンへ兵を集中させるべきです。」
太い指で一点を叩く。
「陸戦になれば、我が軍はライナー軍を圧倒できます。
ここで迎え撃つのが最善かと。」
アントンはうなずいた。
まるで、その意見が出ることを最初から見越していたようだった。
「確かに前線に兵を集めれば強い。」
彼はアポロンから西へ指を滑らせる。
「だが、それではイージプからグランへの侵攻という」
室内が静まり返る。
「ライナーに恰好の口実を与えてしまう」
誰も反論できなかった。
その沈黙を破ったのは、バルブスだった。
「ならば、シャチトル様には一度イージプへお帰りいただいては。」
低い声だった。
「ここは戦場です。」
以前から抱いていた不満を、ついに口にしたのである。
アントンは苦笑するように首を振った。
「そなたがシャチトルを快く思っていないことは知っている。」
その一言で、バルブスは口を閉ざした。
「だが彼女はイージプの女王だ。」
「そして、この二十万の軍勢を維持する莫大な軍資金を出してくれている。」
「それを忘れてはならん。」
「……承知しました。」
バルブスは渋々頭を下げた。
すると今度はガイロが前へ出る。
「連合艦隊は五百隻。」
彼はアンゴラ湾を指さした。
「展開した十万の兵、その中央に位置するこの湾へ集結させています。」
「海からの侵攻は、まず防げるでしょう。」
しかし、その表情は晴れなかった。
「問題は二つあります。」
「イージプ艦隊との連携が、まだ十分とは言えません。」
「さらに大型船が主力のため、水夫の数が不足しております。」
アントンは静かにうなずく。
「その件はシャチトルにも伝えよう。」
全員を見渡し、ゆっくりと言った。
「それぞれ持ち場へ戻ってくれ。」
将軍たちが一礼し、退室しかけた、その時だった。
バルブスが振り返る。
「……また、シャチトル様のところへ行かれるので。」
どこか棘のある言い方だった。
アントンは気分を害した様子もなく、穏やかに答える。
「ああ。」
そして迷いなく扉へ歩き出した。
「女王陛下へ、作戦の報告をしなければならん。」
その背中を見送りながら、バルブスは複雑な表情を浮かべる。
(報告だけ……だと、本当に信じてよいものか。)
誰にも聞こえぬよう、小さく息を吐いた。
アントンが部屋を出ると、重苦しかった空気がわずかに緩んだ。
バルブスはなおも扉を見つめていた。
その胸中を察したのだろう。
陸軍大将カニデスが豪快に笑い、肩を軽く叩く。
「心配するな。」
「……カニデス殿。」
「確かに最近は女王陛下と過ごす時間が増えた。」
「だが、あの方は腑抜けになどなっておらん。」
机の上へ広げられた地図を指差す。
「この布陣を見ろ。」
「敵の上陸地点を読み切り、兵を分散させながらも互いに救援できる配置だ。」
「実に見事だ。」
カニデスは自信に満ちた声で言った。
「あの軍才は、ジュリアスすら凌ぐ。」
海軍大将ガイロも静かにうなずく。
「私も同感です。」
その時、一人の男が書簡を抱えて前へ進み出た。
作戦参謀デリウスだった。
「補足いたします。」
新たな資料を机へ広げる。
そこには海流や風向き、各港までの航路が細かく記されていた。
「敵がどこへ上陸しようとも、制海権はこちらが握っています。」
細い指がアンゴラ湾を示す。
「連合艦隊五百隻をもって敵の退路を断ちます。」
「海から後方を遮断し、陸軍が包囲殲滅する。」
「初戦で勝利を収め、その報をグラン王国全土へ流せば――」
デリウスは口元に笑みを浮かべた。
「敵陣営は瓦解するでしょう。」
誰も異論を挟まない。
理にかなった作戦だった。
すると、さらに一人の男が進み出る。
情報参謀プラスである。
「もう一つ、ご報告があります。」
「先日、元老院のレピダス殿がこちらへ参られました。」
室内にどよめきが走った。
「レピダスが?」
「元老院派最後の大物ではないか。」
プラスは満足そうにうなずく。
「ライナー王は和睦を望んでいるようです。」
「レピダス殿を仲介として送り込んできました。」
「なんと!」
カニデスが声を上げる。
その隣でガイロも笑みを浮かべた。
「それは好都合ですな。」
「講和交渉を装って時間を稼げばよい。」
「その間に兵も艦隊も万全の態勢を整えられる。」
誰もが勝利を疑わなかった。
イージプからもたらされる莫大な財宝。
それを積み込んだ船団とともに、
凱旋門をくぐる自分たちの姿を思い描いていたのである。
しかし、その完璧に見えた布陣こそ、
敵の軍師が待ち望んでいた陣形だった。
コメント
1件
ああ、めっちゃ熱い回でしたね…!アントンの采配、戦略の確かさと同時に、バルブスのシャチトル様へのやきもちみたいな感情が生々しくて好きでした。将軍たちのチーム感と、最後の「敵の軍師が待ち望んでいた陣形」の一文で全部ひっくり返りそうな予感がして、続きが気になりすぎます…!