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―――その後。
しばらく走り続けたが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
そしてチャイムが鳴り、教室に戻ることになった。
何故か霞くんは「欠席」になっている。
さっきまで校内に居たではないか。
何故欠席に?
私は一瞬そんな疑問を抱いたが、答えは分かりきっていた。
その途端、私は物凄い罪悪感に駆られた。
自分のせいで彼を余計に傷つけてしまったのかな、だとか。
頭の中は霞くんのことでいっぱいだった。
―――放課後
長くも短い時間が過ぎ、気づけば日が暮れ始めている。
そして最悪なことに、外では大雨が降っていた。
私は今日、傘を持ってきていない。
持ってきていれば、こんな雨でも 大した事ないと思っただろう。
「はぁ……」
私は大きなため息を付く。
仕方ない。雨が降り止むまで待とう。
そのまま帰ってもいいのだが、私の家はかなり遠いので、ほぼ確実に風邪をひくことになる。
それは避けたかったので、靴箱の近くで長い間待ち続けた。
………だが一向に降り止まない。
もう25分は待っただろうか。
こんなにもまとまった雨が降ったのは久しぶりだ。
じめじめとした雨の日特有の空気が、私の髪を乱す。
そんなこともあり、余計に嫌気が差していた。
…………その時。
私は聞き覚えのない声を耳にした。
ふと後ろを振り向くと、そこには一人の男子生徒の姿。
太い黒縁眼鏡をかけていて、いかにも真面目そうな顔つきをしている。
「えっと……、大丈夫ですか?」
「傘、ないんじゃ……」
彼は おどおどと落ち着き無く話す。
私はそんな姿をあっけらかんと見つめていたが、我に返って返事を返す。
「あ、いや、大丈夫ですよ」
「家、近いんで」
私は咄嗟に 大嘘をつく。
「でも、だいぶ前から待ち続けてますよね」
「家が近かったらそんなに待たなくないですか」
正論で切り返され、何も言えなくなる私。
「よければ傘貸しますよ」
「僕の方が家近いんで」
彼はさっきとはまるで別人のような落ち着きを払い、自分のビニール傘を私に差し出す。
断る理由もなく、私は素直にそれを受け取った。
「ありがとうございます…」
「いえ。それでは」
彼は自分のバッグを頭に被せ、出来る限り濡れないようにしながら帰っていった。
私は彼の姿が消えるまで見届けてから、やっと傘を開いた。
そして家路を辿る。
…………さっきの人、何だったのかな。
つい前まで考えていた霞くんのことは忘れ、今はそのことだけで頭がいっぱいになる。
結局名前も学年も聞かずに、ただお礼だけを言って傘を借りてきてしまった。
私の通う高校はマンモス校なのに、明日同じ人を見つけることは出来るのだろうか。
さっきの出来事を振り返りながら、もんもんと考え歩き続ける。
「あっ、そういえば……」
そういえばさっきの人、『だいぶ前から待ち続けてますよね』と言っていた。
そのことは、私のことをしばらく見ていないと分からないはず。
「……え」
す、ストーカー…―――
「きゃああああああああ!!!」
私はパニック状態に陥り、ダッシュで坂道を上った。
時折後ろを振り返りながら、ただひたすらに。
………そして信号待ち。
ようやくそこで我に返ると、やっとのことで落ち着きを取り戻す。
(でもおかしいよね…)
(なんで私のこと、ずっと見てたんだろ?)
(何もしてないよね?私…)
自問自答を繰り返す。
その間にも、どんどん彼の存在が恐ろしくなっていく。
でも冷静になって考えると、私にストーカーなどつくはずがない。
じゃあ安心か。
と、謎の理論で自己解決すると、私は鼻歌交じりで信号を渡った。
―――そしてあれよこれよと時は過ぎ、ようやく我が家に辿り着く。
「ただいまー」
玄関のドアを開けながらそう言ってみるが、返答はない。
当たり前だ。
両親は今仕事中。
いつもこの時間帯は不在。
今日は部活がなかったこともあり 帰りが早かったので、勿論居るはずもなかった。
そして、無意識に視線を傘の方に落とす。
すると、ネームベルトに何か書かれてあることに気づいた。
『涼風綴』
整った綺麗な字体で、そう書いてある。
漢字が難しくて読むことは出来ないが、ネームベルトに書いてあるということは 恐らく持ち主の名前だろう。
そしてその持ち主というのは……
「(さっきの男の子か…)」
何とか勘で漢字を読んでみると、苗字は「すずかぜ」と解読できた。
さっきの出来事をもう一度思い返す。
(そういやすずかぜ?くん、整った顔してたなぁ…)
きっと眼鏡を外したらイケメンなんだろうなぁと想像しながら、名前をじっと見つめる。
「………」
「明日、探してみようかな」
少し彼に興味を抱き始めた私は、明日 彼をこの広い校内で探す旅に出ることにした。