皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。私がお姉さま達を救助して農園に迎えられて一週間が経過しました。
農園には驚かされてばかりでしたが、なにより驚いたのはその産出される野菜や果物が全て日本で食べていたものと全く同じ味でした。
はっきり言ってこの世界の食べ物は味が薄く不味いものばかりでしたから、懐かしい味に感激して泣いてしまいお姉さまを右往左往させて周りの皆さんを驚かせる珍事が起きてしまいました。ごめんなさい、お姉さま。
そして、どうやら収穫されたそれらの保存法法に苦慮していた様子でしたので早速お役に立てるように動いてみました。
農園にはたくさんの倉庫がありましたが、そのうちのひとつをお姉さまに頂きました。即答だったので、ドワーフの皆さんを呆れさせてしまいましたが。
さて、私がこれから作ろうとしているものは単純な氷室です。冷蔵庫なんてありませんから、内部に作った氷で中の温度を下げて食物などが痛むまでの時間を伸ばすものです。
本来氷室は地中など熱が籠らない場所に作るものですが、私の魔法を使えばその条件は該当しません。
「永久の眠りに……」
私が魔力を込めて魔法を行使すると、倉庫内のあちこちに大きな氷柱が産み出されました。
この氷は対象を永久凍結するために産み出された特殊な氷で、私自身が命じるかマグマ並みの高温がないと溶けない代物です。
そして倉庫内を冷やすには最適でした。やり過ぎて全体を凍らせてしまったのは秘密です。
私は早速お姉さまに氷室を披露することにしました。
お姉さまは『大樹』にあるお墓に祈りを捧げていたので、それが終わるのを待って倉庫に連れていきます。
「あっ、涼しい」
今真夏ですからね、外は暑いです。私もお姉さまとお揃いのワンピース姿です。色だけは赤にしましたが。
「お姉さま、ロウから聞きましたよ。収穫物の保存に苦慮されているとか。だから、こんなものを用意してみました」
「なんだこりゃ、氷がある!?」
あっ、ついでに|ルイス《お邪魔虫》もついてきましたが。
「魔法で氷を産み出して、内部を冷やしたんです。温度を下げることで鮮度が落ちる速度を低下させることが出来ます。ご要望なら凍らせることも出来ますが」
「レイミ!素晴らしい発明です!貴女が妹で本当によかった!」
お姉さまが抱きついてきました。無様に倒れないように気を付けながら受け止めましたが、これは嬉しい。ああ、お姉さまと抱擁……至福……。
「おーい、戻ってこーい」
「はっ!?」
いけない、トリップしてしまいました。危ない危ない。
「早く離してやれよ、妹さん。シャーリィが死んじまうぞ?」
「なにをバカな……お姉さま!?」
気付くと私の胸に埋もれてじたばたしているお姉さま!慌てて抱擁を解きます。
「はーっ!はーっ!死ぬかと思いました」
「ごめんなさい」
「いえ、至福の時間でしたよ」
「お姉さま」
ああ、お姉さまと見つめ合うこの時間を冷凍保存したい……。
「また飛んでるぞー」
はっ!?
「飛ぶ?よく分かりませんが、レイミ」
「はい」
「これ、持ち運びが出来るサイズでも可能ですか?」
「つまり配達中も鮮度を保ちたいと?もちろん可能ですよ。お姉さまさえ良ければ直ぐに氷を用意しますが」
「それは密閉された方が良いですよね?」
「それはもちろん」
はて、お姉さまが何か考えてる。
「あー、諦めろ妹さん。こうなったらシャーリィはしばらく動かねぇぞ」
「何故?」
「それが分かるなら驚かなくなるさ。シャーリィの奴が突拍子もないことをする前兆だしな」
しばらくするとお姉さまの長考が終わりました。
「うん、今度試してみましょうか」
「何か思い付いたんだな?シャーリィ」
「ええ、上手く行けば取引先の皆さんを喜ばせることが出来ます」
なんだろう、気になりますがお姉さまが教えてくれるのを待ちますか。
次に私達は農園にあるダンジョンにやってきました。
「マスター、今日は妹を連れてきました」
えっ!?ガイコツが法衣を……まさか、ワイトキング!?お姉さまのマスターってワイトキングだったの!?
『ふむ、大いなる魔力を感じる。それに、これは女神の加護か……』
「れっ、レイミと申します!」
『うむ、そなたも気軽に参るが良い。知識を持ってくれば魔法の教えを授けよう』
いや、最上級の魔物を師にするなんて……お姉さま、規格外過ぎます……。
ダンジョンを後にした私達は、女性陣で入浴しました。大浴場があるとは思いませんでした。それに、お湯に浸かるのは久しぶりなので気持ちが良い。
「この格差はなんですか。あれですか、試練ですか」
お姉さまがジト目を向けてきます。まあ確かに……。
「必然です」
「邪魔になるだけだよ。肩が凝るだけだからね」
「あはは……なんだかごめんなさい」
だって、シスターカテリナ、エレノアさん、エーリカ、そして私に囲まれたお姉さま。
……有り体に言えば。
「お胸様がすごい皆さんに囲まれたチンチクリンの私。新手のいじめですか?泣きますよ?」
お姉さまだって決して貧相ではないのです。むしろ可愛いのですが。
確かに発育は年相応とは言えません。
「お姉さま、アスカちゃんがいますよ」
「幼女と比べられても……」
あっ、拗ねた。可愛い。
……そのアスカちゃんは離れた場所で……あっ、寝てる。
「あらら、アスカ寝ちゃったかな?」
エーリカがアスカを抱き寄せています。アスカも不思議な娘だ。獣人は何人も見てきましたが、頭にある犬のような耳以外は特徴がないのです。尻尾や鋭い爪もないし。気になりますね。
入浴を済ませて私は用意された部屋に戻りました。今夜はお姉さまが不在です。何かあったのかな?
まあ、忙しいのでしょうね。
明日はなにがあるのかな。今から楽しみです。だって、こんな幸せな毎日が送れるなんて夢みたいで……ふふっ。思えば私も府抜けたものだ。でも、この感覚は心地が良い。出来ればずっと、ね。
夜、地下室。
「はっ!?ここは、どこだ!?」
目覚めた『エルダス・ファミリー』幹部バンダレスは周囲を見渡す。様々な拷問器具が置かれた石作りの冷たい空間が広がっていた。
「その声は、バンダレスの兄貴!」
声がしてバンダレスが振り向くと、そこには眼を覆いたくなるような光景が広がっていた。
全身に、手当てされた形跡があるが様々な器具で傷つけられた跡が生々しく残り、眼は潰されていた。
「お前、まさか……グリーズか!?」
それはかつてシャーリィを狙撃した狙撃手の変わり果てた姿だった。
そして同時に扉が開く音が響いた。
「ひぃいいいいっ!!もう嫌だ!嫌だぁあっ!!」
その瞬間グリーズが発狂する。
振り向いたバンダレスが見たのは。
「ごきげんよう、シャーリィと申します。さあ今日は新しいお友達も居るので張り切っていきますよ?楽しい楽しい時間です」
ワンピースを来た少女が赤錆た鉈を持ち満面の笑みを浮かべていたのだった。
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