常歩くらいのスピードで、でもたまにある直線っぽい場所では速歩にもなりながら五朗とソフィアの二人が厳つい顔立ちをした黒馬と共に拠点に向かっている同じ頃。既にもう拠点まで二十キロ程度にまで迫ってきた辺りで、リアンが急に足を止め、周囲の様子を伺い始めた。
(追尾の気配はまだ何も無い。空からの監視の目も無いし、此処もまだ安全そうだ)
だがリアンは念の為にと、カバール村の時の様に自分達の居る地点を中心として数メートル程度の小さな範囲に結界を張り巡らせて完全なる安全地帯を急拵えで造った。これでもし魔物や獣人などといった魔族達が近づいて来ても見付かれる心配は無い。例え誰かが結界の側に寄って来ても自然とこの地点を避けて通りたくなる効果を持たせたので、騒いだりさえしなければ仲間に連れ戻されずに済むはずだ。
「焔様、この辺で一度休憩を取りませんか?」
「何故じゃ?拠点まではもう少しだろ。なら、このまま戻った方がいいんじゃないのか?」
(くそっ……距離感覚がしっかりしてらっしゃいますね)
心の中で小さく舌打ちをしつつ、巨大な妖狐の姿のリアンがめげずに説得を続ける。
「でもほら、この辺の小川の水はきっと美味しいですよ?小鳥の囀りなどを聞きながら、ちょっとのんびりしていきませんか?」
「そんなもん、拠点でも聞けるだろ」
(そうですけども!そうだけどもさぁ!!——あーくそっ)
「……こうなれば、もう率直に言います」
ふぅと息を吐き、リアンが背中に焔を乗せたままその場にしゃがむ。もう此処で休む気満々で、一歩だって進むつもりは無い。
「そんなに疲れたのか?変化した上に八十キロ近くも走ると、やっぱりキツイか」
「いいえ、この程度で疲れる程ヤワではありませんので」
カバール村を初めて目指した時、一気に百キロ近くを全速力で走り切ってみせた身としては、体力や魔力が無いのかもと思われるのは癪だった。
「じゃあ一体どうしたんだ?」と言いつつ、仕方なしに焔がリアンのもふっとした背中から降りて、彼の横に並び立つ。
「この辺でまた一つ、フラグを回収していきませんか?」
『……ふらぐ?何だったろうか、ソレは』 と言いたげな空気を焔は一瞬纏ったが、すぐに何の事なのかを思い出し、「こんな場所でか?」とキョロキョロ周りを見渡した。
ノトスは何の変哲もないただの森なので、この周囲も当然木ばかりだ。リアンの言った通り少し先からは小川の流れる音や鳥の囀りが微かに聞こえてくる。『自然』を絵に描いたような景色はとても綺麗だが、でもただそれだけのありふれた場所である。
こんな場所ではコレといってフラグを回収出来そうなイベントが発生する雰囲気はまるで無い。なのにリアンは獣そのものな口元でニッと笑い、自分の首元に手を置きながら隣に立つ焔の頰を器用にペロッと舐めた。
「焔様、焔様」
「ん?」
「『青姦』って、十八禁ゲームの登竜門だと思いませんか?」
パタンッパタンッと大きな尻尾で地面を叩き、ハッハッハッと雑な呼吸をしながらリアンが言った。イイコトを提案出来た感が半端ないが、焔の方は当然違う。
「ちょっと何言ってるかわからない」
ちゃんと言葉の意味はわかっている。わかっているんだが、スンッと冷めた真顔のまま焔がそう吐き捨てた。
「コレ、絶対にフラグの回収出来ますよ?ほら、魔王を倒す為には一つでも多くのフラグの回収が必要ですし!」
まだまだ魔王の城まで連れて行く気なんか全然無いくせに、焔の体を自由にする為だったら何度だって嘘をつく気でいる様だ。
「……お前は、本当にもう……ソレばっかりだな」
昨夜も今朝も——毎日毎日、隙をみては魔力の回復の為だとリアンは性行為を求めてくる。焔を心から想っている身としては当然の行為なのだが、焔側からすると、どうしたって素直にはリアンの提案を受け止められない。
「んー……血気盛んなお年頃だからでしょうか?」
きょとんとした瞳をしながら、リアンが真っ黒な妖狐の姿のまま首を傾げる。カッコ可愛いが、だからって即座に同意は出来ない。
(……かわぃ——、いやいやいや。違う、今はそんな事を考えている場合じゃ無い)
「お前の場合は、ただの性欲旺盛なだけだろ」
「そうとも言いますね」
(魔力は今朝で十分補充出来たはずだ。なので純粋に今はフラグを回収したいだけなのだろうが、だからって……此処で、か?)
焔が諦めムードで見上げた空はどこまでも透き通っていて、とても明るい。
(前とは違い、今は元の世界へ少しでも早く帰りたい気持ちがある。その為には必要な行為なのだと言われれば、切り捨て難い提案ではあるが……こんな明るい場所で、しかも外で本当にす、す……するつもりなのか?——コイツ、気は確かか⁉︎)
「……焔様」
うっとりとしたリアンの声が、やたらと甘ったるい。巨大な妖狐の姿のまま焔の正面に立ち、彼の耳元に顔を擦り寄せ、焔の体の匂いをスンスンッと嗅ぎ、深く吸い込む。愛おしい者の匂いを深く吸い込むと、心が満たされる。緑の香りも悪くはないが、断然こちらの方がいいとリアンは思った。
「……リ、アン。——あのな?」
ごくんっとゆっくり焔が唾を飲み込む。『流石に止めておかないか?こんな場所では』と続けたい言葉も一緒に腹の中にたが、体は正直だ。じわりじわりと無意識のうちに、逃げるみたいに後ろへ足が下がっていってしまう。
(——早く戻る為だ、コレは。そもそも、リアンに触れられる事を拒否したい訳じゃ無い。感情の伴っていない行為を避けたいだけだ。……だが、今はその点を我慢しなければ。このまま身を任せておけば、それだけ早く戻れるんだからな)
「何ですか?」
「……何でも、無い」と返事をしたと同時に、焔の背中が森の木にドンッとぶつかった。
(『早く元の世界へ帰る為』——なのだろうな)
何となくそうとはわかっていても、『青姦』の二文字にリアンの心が躍る。メリーバッドエンドに進むのだと彼の中だけでは確定しているので、もうハッピーエンドの為のフラグ回収なんか正直どうでもいいのだが、焔に触れられる理由になるのなら何だって利用したい。
今朝の行為のせいでまだシワの目立つローブを何度も噛んで捲り上げ、焔の服の中に大きな顔を突っ込む。だがすぐに顔に布が落ちてきてしまい、視界が塞がれてすごく邪魔だ。
「焔様、ちょっと着衣の裾を持ち上げたまま押さえていてくれませんか?」
「まさかお前……その姿のまま、スルつもりか?」
「はい。コレもまた一興でしょう?」
「俺には全くわからん」と答え、焔が首を横に振る。でも、手だけはちょっと震えながらも着衣の裾を掴んでいて、羞恥に耐えつつリアンの要求に従った。
「ありがとうございます」
嬉しそうに礼を言い、リアンが今朝まで握りしめて離さなかった下着を軽く噛んで、せっせとズリ下げていく。そして微塵も反応していないありのままの陰茎を青空の元に晒すと、満足気に微笑み、大きな口をあんぐりと開けて長い舌でベロリと舐め始めた。
「んくぁ!」
ザラッとした妖狐の舌の感触に驚き、焔は大きな声をあげてしまった。
「しー!焔様、あまり大きな声をあげると誰かに聞こえてしまうかもしれませんよ?」
その言葉を聞き、焔が口を閉じて唇を軽く噛む。流石にこんな辺境の地では人が不意に通る心配は無いだろうが、こんなタイミングで魔物が襲って来ては大変だと焔は慌てた。
そんな主人の姿を見て嬉しそうにリアンは目を細める。最初は優しく舐め、焔の陰茎を勃たせるべく、水音をたてながら真面目に口淫をしていく。人の舌とはまた違う感覚のせいで、『こんな場所でなんか』という気持ちが焔の頭から容易く飛び去り、腰が少し動き始めた。
「はぁ、んっ!」
抑えようとしても声が自然と出てしまう。立っているのがかなり辛く、ずるずるとゆっくり木に体を預けながら焔の体が下へ下へとさがっていく。
「おや、辛かったですか?」
「そりゃ……な」
わかっていて訊くなと表情だけで訴え、リアンの額をぐっと押すが力が入らない。今もしこのタイミングで敵に襲われたら悔しい事に一撃でやられてしまいそうだ。
「いつでもイッていいのですよ、焔様」
そう言われて、『わかった。じゃあ——』と答えるつもりはないが、だからといって我慢するのは正直かなりキツイ状態まで焔は追い詰められている。真っ昼間の外でという背徳的なシチュエーションのせいもあるかもしれないが、やはり一番の理由は、リアンのいつもとは違う舌のせいだろう。
後ろの木に寄り掛かった体勢で座っているおかげで服の裾を捲ったまま掴むのをやめる事が出来たので、焔が地面に軽く指を立てた。
股座に真っ黒い妖狐が顔を突っ込んでいる様子は、もし今この瞬間、何か奴の癪に触ってしまったらどうなるのかと思うと肝が冷える。意図せず両脚が閉じていき、細い太腿でモフッとしたリアンの大きな顔を挟んでしまった。
「……焔様、ダメですよ?」
リアンが舐めるのを一度止め、前足で器用に焔の両脚を開かせる。肉球で肌を押され、焔の口元がちょっと嬉しさで緩んだ。
「ホント、焔様はこの姿に弱いですねぇ」
的を射た事を言われ、焔の肩が少し跳ねた。
「う、五月蝿い。もっとちゃんと……舐めたらどうだ?お前は……俺の精液が、欲しいんだろう?」
発言は挑発的ではあるものの、内情は限界間近で声が震えている。
「ふふっ。ええ、いいですよ。その代わり、たっぷり私の口へ出して下さいね」
パクリと咥え、ジュボジュボといやらしくわざと大きな音を立てて陰茎の舐め回す。先走りがダラダラと出てきていて、リアンの唾液とも混じり合い、水音が二人の間で響く。
「あぁっ……んあ、あぁぁ……く、んっ」
「声、我慢しないとダメだと言っているじゃないですか。こんなタイミングで魔物にでも襲われたらどうするんです?」
「むり、だぁ……そんな、声、いぁっ……もっ、あ、あ、あぁっ」
「……集団で襲われちゃいますよ?口に無理矢理入れられたり、胸を吸われたりとかされながら、同時にココとかも咥えられて、何時間も何日も強引にされてしまうかもしれませんねぇ。異種族の子を孕むまで、何度も何度も中に出されてもいいのですか?」
(——まぁ、当然そんな事はさせないけど、な)
獣の様な鋭い八重歯を見せながらニヤリと笑い、次の瞬間には少し強めにリアンが焔の陰茎を舌を器用に使って扱いた。
「あっ——」と少し大きな声を発した焔の背が後ろに反れ、ビクンッビクンッと全身を震わせる。それと同時に快楽が一気に弾けて白濁とした欲望の全てを、妖狐の口内へ、焔が遠慮なしに吐き出した。その量は普段の比ではなく、今朝だってすでに何度も出した後とは思えない程だ。
二度、三度と彼の体が小さく震えているが、リアンは陰茎から口を離すどころか、残滓をも全て奪うかの様に吸い尽くしていく。そして最後の一滴すらも全て腹の中へ収めると、ゆっくり口を離していった。
「いやらしい……。まさか、ご自分が魔物に強姦される姿でも想像しちゃったんですか?いつもよりも濃厚で、すごい魔力量でしたよ?」
カッと顔が真っ赤に染まり、焔が反射的にリアンを叩いたがやっぱり力は入っていない。
「違う。……そんな趣味は、無い」
射精したのに体の熱が冷めず、焔がリアンの顔にギュッと抱きつく。もっと触れて欲しい、もっともっともっと……と言うように体を擦り寄せ、リアンの大きな角を撫でつつ彼の尖った獣耳にカプッと噛み付いた。
「……お前が、傍に……居るんだ。他の者に襲わせなんかしない、そうだろう?」
その言葉がリアンの胸に深く刺さり、ぶつんっとなけなし理性がとうとう切れた。
「もちろんです!俺以外がお前に触るとか、絶対に許す訳がない!!」
自分へ抱きついてきていた焔の体を地面に押し倒し、リアンがその身を前足で玩具みたいに転がして、うつ伏せにさせる。
「獣みたいに、四つん這いになれるか?大丈夫、最後までは……我慢するから」
リアンの素が出てしまっているが、もうどっちも気にする余裕が無い。互いに極度まで興奮していて、快楽を求める獣と化している。
「こ、こうか?」
四つん這いになり、焔は自ら服の裾を捲り上げた。下着は膝の辺りまで落ちていて、靴下やブーツを履いたままの状態が妙にイヤラシイ。太陽の元であられもなく晒されている太腿やお尻は汗でべたついている。双丘に隠れていた小さいな蕾は享楽を求めるみたいにヒクついているが、リアンは宣言を守るべく、グッと理性へ手を伸ばして何とか踏み留まった。
早く、とリアンを求めるみたいにモジッと焔が脚を擦り寄せている。そんな彼の上にリアンは妖狐姿のまま覆い被さると、馬以上のサイズに勃起したモノを焔の脚の隙間へと当てがった。
本当は、このままナカに挿れてしまいたい。
でもこんなモノを勢い任せに挿れたりでもしたら、何者かによって既に開発済みっぽい焔の体であろうとも裂けてしまうのは確実だろう。巨大な妖狐と小柄な鬼との違いは、『誤差』で片付けられる範囲じゃないからだ。
「……好き、ですよ」
いくら言ってもきっと焔には伝わらない。そうだとわかっていても、つい口に出してしまう。強く想う気持ちが胸の奥から無尽蔵に溢れてきて抑えきれない。『俺もだ』と返して欲しいが、それは無理である事も理解しているので、リアンは返答を求めはしなかった。
「そのままで。逃げるなよ?誤って、後ろに挿れられたくはないだろ?」
震える小声で「……わ、わかってる」と焔は答えたが、後ろが疼いて仕方が無い。ソレだけは絶対に嫌だと思う気持ちと、快楽を欲してしまう体とか彼の中で殺し合いを始めそうな勢いだ。
白くて細い両脚の間ににゅるんっとリアンの陰茎が入り込んでいく。それによりお互いのモノが擦れ合い、二人の体が喜びで打ち震えた。野外で獣姦に浸る様にしか見えない状態ではあるが、気持ち良過ぎてそんな事はもうどうでもいい。腰を激しく振り、まさに獣の様に互いがもっともっとと痴態を貪り合う。大きな嬌声をあげてしまわないよう必死に堪えてはいるが、気持ち良過ぎて、叫んでしまうまでは時間の問題だ。
「焔、焔、ほむ——」
何度も焔の名前を呼び、リアンが彼の口元を大きな舌で舐める。するとそれに応えるみたいに焔が口を開いで、おずおずとした動きで小さな舌を突き出した。先っぽだけを軽く擦り合わせ、口の端から唾液が流れ落ちる。
巨根が擦れ続ける焔の太腿はもう二人の汗や先走りでびしょ濡れで、全身から立ち登る悦楽に満ちた匂いでむせ返りそうだ。
執拗に攻められ続け、もっともっとと焔も腰を動かす。どちらも今までで一番、この淫楽に深く嵌まり込んでいる。我慢が出来ず、焔が「い、ぁぁっ!」と小さく呟きながら二度目の射精をしたが、リアンは構わず自分の好きに動いた。焔の着ている服を破り捨て、全身を味わい尽くしたい衝動に駆られながらも、果てを目指して腰を穿つ。
「イ、イクッ!」
パンパンッと肌がぶつかり合い、ぐちゅぐちゅっと大きな音が鳴る。それでも構わず焔の体を堪能し続けていると、リアンの陰茎が突如弾け、一度目の焔に負けず劣らずな量の白濁液を地面に向かって吐き出した。ナカにソレを出されていたら、この行為だけで確実に孕んでしまいそうな濃さだった。
「……まだ、出来ますよね?」
熱を持つ耳に獣耳を擦り寄せて、少しだけ腰を振る。もう完全に勃ち上がっていて、リアンの復活の早さに焔は驚きを隠せない。が——
「この程度で、バテるわけがない……だろう?」
ぐったりと上半身だけは地面に崩れたが、お尻だけは突き上げたままの状態で焔が言った。
「強がりですねぇ。でも、そんなお前も可愛いな」
リアンがクスッと笑い、チュッとリップ音を響かせながら焔の頰にキスをする。
「予想外にも獣姦がお好きな主人が満足するまで、一緒に楽しみましょうか——……」
馬の走る速度では、ソフィア達が今日中に此処まで辿り着くのは到底無理だと知っているリアンは、妖狐の姿のまま焔と共に青姦を続けた。 その結果、彼の予想通り良好なエンディングへと向かうフラグを回収し、イベントスチルも入手出来たのだが、『そんなものはもうどうでもいい』と思う気持ちはリアンの中で揺るがず、どのくらいそれらのフラグを回収出来ているのかをソフィアに訊いて確認する事は、後にも先にも一度も無かったのだった。
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