pnside
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「おばーちゃん !!」
「元気だっかい?」
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「𓏸𓏸さんを呼んで ッッ !!」
「はい !!」
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「お食事の時間です」
「ありがとうお姉ちゃん !!」
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「あそこの方って _ 」
「さっき手術室に移動されましたよ」
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こん x3 ヾ
がらがら … ヾ
看「失礼します」
いつもより少し早い時間に看護師が部屋に入ってきた。
それに昼食の物も持ってきていなかった。
看「主治医の方と話し合い、今後の食事は主治医の方が付き添う事になったのですが大丈夫ですか?」
pn「…」
先生が?
どうやら先生から看護師に言いに行ったらしい。
でも俺もその方がいいのかもしれないと思った。
いつも味がしなくてその割にはなぜが不味いと感じていた病院食が昨日の夜だけは味がしたし不思議と何も不快感を感じずに完食した。
俺のペースに合わせてくれるしバランスも良かった。
それなら俺は絶対そっちの方がいい。まぁ昨日の夜だけ本当に美味しかっただけかもしれないけど。でも食べさせるのが下手ではなかったし嫌な空気もなかった。
俺は黙って頷いた。
看「分かりました。私の方から伝えておきますね」
看「ただ、主治医の方は今整形外科の方と話しているので今日の昼食は私が付き添わせていただきます」
pn「…」
看「それでは、失礼します」
がらがら … ヾ
-
がちゃ … がちゃん
がたがた …
ぴ … ぴ … ぴ …
かたん … ことん …
-
やっぱり日中は嫌いだ。
どの音も大嫌いだし眩しいし全てがうるさい。
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
俺には昼の明るさも賑わう施設の音も電車の音も合っていない。
聞けば聞くほど頭が痛くなるし気が重くなる。
陽の光を当たって元気が出るなんてことは全くない。
今日の昼食の手伝いに来た看護師の人はどうやら新人のようで、ペースは早かったり遅かったりバラバラで、手を下に添えてあるから布団や机にはかからないけど一度にすくう量を間違えてよくこぼしていた。
そんな慣れない手つきに雑音めいた不快感を感じた。
昼の病院の空気は息苦しい。
夕方。オレンジ色から紺色に染まりつつある空を見ていると扉が小さく開いた。
先生が夕食を持って入ってきた。
この先生は他の先生と比べて出入りの音がすごく静かだった。俺は大きい音が嫌いだからちょうど良かった。
rd「夕食の時間で〜す」
いつも通りに軽く、優しく。でもそれは実際は適当で棒読みなだけ。
先生は俺に昨日も今日もこうして歩み寄ってきてくれたし距離を近づけようとしてくれている。
なら俺も少しくらい返さないと … なにか 、
でも何も話さなかった俺が急にペラペラ話すなんて無理に決まっている。
だから …
がたがた ッッ !! ヾ
rd「?」
rd「どうした?」
横の机に置かれてあるノートとペンを取りたかった。撮りたかったけど俺の手は震えて力が入らなくて結局床に落としてしまった。
pn「….ぁ 、 あれ ッ 、 」
ぼそっと。弱く細い声だった。自分でもびっくりするほど。
でも俺は自然と声が出た。無理やりなんかじゃない。本当に自然と。
rd「…!」
先生も少し驚いた様子が顔に出ていた。
俺が取ろうとしたからなのか声を出したからかは分からない。けど、どちらにせよ話そうとしているという気持ちは伝わったんじゃないかと思う。
rd「はい、ノートだよ…けど手に力入らないから書けないよね」
「俺の気配りができてなかった」と俺に軽く謝罪をした。
でも俺はそんなことを気にせず震える手で何とかペンを握った。
そんな俺を見て先生は何となく察してくれてノートのページをめくって、ノートがズレないように押さえてくれた。
もちろん綺麗には書けなかったに弱々しくがたがたの字だった。読めるかも不安なくらい。
それでも先生は頑張って読もうとしていた。
rd「 “ありがとう” って書いたのかな?」
pn「…」
俺が黙って頷くと先生は嬉しそうに笑みをこぼして同じようにノートとペンに触れた。
俺とは違ってノートを滑らせるようにペンがさらさらと動く。
先生が俺に書いた言葉は “こちらこそありがとう” だった。
rd「じゃあご飯食べよっか」
スプーンが口元まで運ばれる。
けれど、そこで止まった。
喉が強く閉じて、どうしても飲み込む気になれない。
先生は強く促さなかった。
ただ、俺の顔を静かに覗き込み、少し声をかける。
rd「今日はここでやめておく?」
rd「無理しなくて大丈夫」
首を少し傾けて、待っていてくれるだけ。
看護師のときは違った。
残そうとすると決まって声が飛んでくる。
「全部食べないと体がもたないよ」
「あと少しでいいから」
無理やり口を開けさせられる圧に、息が詰まっていたのを思い出す。
でも先生は違った。
rd「大丈夫、ここで止めてもいいよ」
そう言って、スプーンをそっと皿に戻す。
当たり前のことのように、自然に。
不思議だった。
誰にも責められないだけで、こんなにも楽になるなんて。
体中の力が少しずつ抜けていくのを感じた。
皿はそのまま横に置かれ、先生は静かに座っている。
たまに小さく「味は変じゃない?」とか
「無理はしてない?」と声をかけるだけだった。
次の話題を作るわけでも、返事を求めるわけでもない。
ただ、「大丈夫だよ」と態度で示してくれる。
その静けさに救われる。
無理をしなくていいということが、こんなにも重みを軽くするなんて。
胸の奥が少し熱くなるくらい、安心していた。
目は合わせられなかった。
それでも、そこにいてくれる気配だけで十分だった。
残した食事が目に入るたび、叱責ではなく許しを感じられる。
俺はただ、呼吸を整えて、静かにその時間を受け入れた。
ゆっくりと背中をベッドに預ける。
体の力が抜けて、瞼が自然と重くなる。昼間の騒がしい時間とは違い、今は静かで、穏やかな時間が流れていた。
窓の外はいつの間にかオレンジから紺色へと変わっていて星空がゆっくり広がっていた。
街の音も、機械の小さな音も遠くに感じる。
先生の存在だけが近くにあって、ただそこにいるだけで、落ち着きが広がっていく。
手の骨折で自分では何もできない状態のまま、少しずつ呼吸を整えていく。スプーンも、食事も、すべて置かれたままでも構わない。
先生は静かに横に座り、俺の動きに合わせて微かに声をかけるだけ。返事は求めない。強制もしない。ただ、その場にいてくれた。
rd「疲れたかもね」
小さく、でも穏やかな声が耳に入った。うん、と頷きかけたけど言葉にはならなかった。目を閉じると、自然と瞼が重くなる。緊張で硬くなっていた体も、少しずつ溶けていくようだった。
先生の呼吸や静かな気配を感じながら、俺はそのまま眠りに落ちていった。誰かに守られているような感覚ではなく、ただそこに居てくれることが心地よくて、初めて人がそばにいても安心できる時間ができた。
目覚めたときには、昼間のうるさい世界や眩しい光が俺を襲うかもしれない。 でも、今の静けさと先生の気配は忘れられない。
小さな安心のかけらが、心に残ったまま、夜の病室は静かに包まれていた。
コメント
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設定もらだぺんの距離感も新鮮で大好きです!!
なんかもう良すぎて、、、 続き楽しみしてます!