テラーノベル
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逃げだと言えば逃げだと思う。
けど私は今、侑哉に彼女が出来たら、祝福できるかな?
また心のバランスが壊れてしまわないかな。
――置いて行かれるような、寂しい気持ちから今度は何処に逃げるんだろう。
そう思ったら、部長が帰って来ないまま始まったイルカショーが、全然頭に入って来なかった。
イルカと触りたい人、と、飼育員さんが会場に声をかけると何故か子ども達に混ざって、侑哉と明美先生も必死で手を上げていたけど。
イルカのジャンプする水しぶきで、明美先生のハンカチなんて意味がないほど濡れて、笑いあってる二人を見ながら、――私だけここに馴染んでいないような気分になった。
「悪い。混んでてなかなか席に戻れなかった」
煙草の匂いをつけて部長が戻っても、普段通りに振る舞えなくて下を向いてしまう。
――こんなうじうじした私、嫌になる。
明美先生たちが眩しくて、みじめだ。
「退屈ならお前、ちょっと買い物付き合えよ」
「え!?」
腕を引っ張られ、強引に立たされた。
「おい、土産んとこ居るから!」
侑哉たちにそう叫ぶと二人も濡れたまま笑って手を振る。
「すぐに向かいまーす♪」
そう言いつつ、また水しぶきを浴びに前の方に詰めて行った。
「この茶碗とフォーク、真に買うならどっちかな」
部長は、イルカとペンギンのイラストの御茶碗を見比べながら、首を傾げていた。
「先生はどっちが好きと思いますかね?」
こんな時だけ調子よく先生と言われても、嬉しくなんてなかった。
隣にあるイルカのぬいぐるみを手に持ちながら一体私は何で此処にいるのか、本当にわからなくなってきた。
「あいつ優等生だからなんでも喜ぶんだよな。でも出来れば本当に喜んで欲しいじゃん」
そう目を輝かせて笑う部長は、なんだか本当のお父さんみたいに目を輝かせている。真くんをちゃんと可愛がっているのは本当みたいだけど。
「優等生にさせているのは、今の環境のせいだって自覚はありますか?」
本当なら、保護者と保育士の関係ならば言えないような事だけど、プライベートでも接する人だからストレートに言ってみた。
真君がいつも笑顔で良い子なのは、なかなか会えない部長に良い子にして待ってたら会えると信じているかもしれないし、ホテルが忙しい祖父たちに迷惑をかけたくないからかもしれない。
――もしかしたら、本当のお父さんじゃないと気づいているのかもしれない。
真君が可愛くて良い子で、保育園でも人気があるのはそれが証拠だろうな。
「そうだな。そろそろ本当に引き取るつもりだよ」
部長が口先だけではないのは分かるけれど、今日だって真君を置いて来ているわけだし。
――私だってあんな可愛い子いつか産みたい……。
そう思った瞬間視界がクリアになって、周りの子ども達の笑い声が聞こえてきた。
――ママ、あの人形買って買って!
――いるかしゃん、かわいかったねー
――ねむい、だっこー
兄弟で走りまわったり、親に抱っこされてたり。
――幸せそうで、羨ましい。
「あの、帰ります!」
「は?」
「失礼します!」
「おいっ みなみ!」
泣きだしそうな顔を見られたくなくて、ただ必死に外に飛び出した。
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