テラーノベル
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尊さんの射抜くような真剣な眼差しに、不意に鼓動が跳ねる。
ドキドキする胸を抑えながらフォークを手に取り、まずは一口、テリーヌを切り分けて口に運んだ。
「んんっ!?おいしい……っ!」
濃厚なショコラテリーヌの層を抜けると、中から現れたのは驚くほど滑らかな口溶けのチョコレートムース。
凝縮されたカカオの苦味を、ベリーの鮮烈な酸味が引き立て、さらに追い打ちをかけるようにバニラアイスの冷たさと甘みが口内を支配していく。
「絶品すぎます…っ、尊さんもひと口どうですか?」
この感動を共有したくて、俺は無意識のうちにケーキを刺したフォークを尊さんの方へと向けた。
そのとき──
カシャッ
耳元で、控えめなフラッシュ音が響いた。
「え?」
慌てて固まると、目の前では尊さんがスマートフォンをこちらに向けて構えている。
「尊さん……今、撮りました……?」
「記念にな」
尊さんは平然と、それでいて余裕たっぷりの表情で笑っていた。
「えっ、あ、こういうところで写真撮ってもいいんですね…っ」
「そこか。ああ、予約時に許可してもらってるからな。フラッシュを最小限にして、少し撮るぐらいなら大丈夫だ」
「そうなんですね……って!いっ今の……俺、尊さんにあーんしてましたよね……っ?は、恥ずかしいですよ!」
自分が何をしていたのかを自覚した途端、顔がカッと火照る。
「それがいいんだろうが」
「…うっ、あんま、見ないでください……っ、」
羞恥心で顔を伏せたくなるが、尊さんは楽しげに俺を観察し続けている。
「ふっ……なら、早くさっきの続きを頼む」
尊さんの低く響く言葉に、心臓が跳ね上がった。
「さ、さっきの……?」
恐る恐る問い返すと、尊さんは
「あーん、してくれるんだろ?」と、子供がいたずらを成功させた時のような、堪らなく魅力的な笑みを浮かべた。
「~~~~~っ!!」
羞恥心で頭の芯が沸騰しそうになり、顔から火が出るほど赤くなっているのが自分でもわかる。
けれど、自分から差し出したフォークを今さら引っ込めることもできず、逃げ場を失った俺は意を決して震える手でフォークを持ち直した。
「は、はい」
「ん」
尊さんは少しだけ身を乗り出し、大きな口を開けて待っている。
フォークを持つ自分の手が小刻みに震えているのが、自分でも情けない。
けれど、彼はそれを楽しむかのように早く、と急かしてくる。
ゆっくりと、夢の中を進むような感覚でケーキを運んでいくと、尊さんの唇が穏やかに閉じられた。
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