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※※※



 楽しそうにはしゃいでいる健《たける》達の姿を眺めながら、可愛い美兎ちゃんの姿を思い浮かべてボンヤリとする。


「……うあーーっっ!! 未来《みく》ちゃん、ざんねぇ〜ん!!」


 輪投げを外してしまった未来ちゃんに向けて、さも残念そうな顔を見せると大きな声を上げた健。ハッキリ言って、オーバーリアクション過ぎる。

 だが、流石は盛り上げ隊長。周りにいる大和達4人の男女は、とても楽しそうな笑顔を見せている。


 俺は今、大和の彼女とその女友達2人を含めた男女6人で、地元近くのそこそこ大きな夏祭りへと遊びに来ている。

 まぁ、決して悪くはない状況だと言えるだろう。だが——!


(クソォォオーーッ!! どうせなら、うさぎちゃんと来たかったわ……っっ!!)


 これが本音だ。けれど、カテキョの生徒である美兎ちゃんのことを、仮にも先生という立場の俺から気軽に誘えるわけもなく……。

 ましてや、相手は中学生。犯罪の香りしかしない。


 否——! 間違いなく、犯罪を犯してしまう自信しかない。

 あんなに可愛い美兎ちゃんと2人きりで夏祭りだなんて……そんな素晴らしいシチュエーションの中、我慢なんてできるわけがない。


(あぁ……っ! 浴衣を着たうさぎちゃんは……っ、なんて可愛いんだっ♡)


 脳内で浴衣姿の美兎ちゃんを妄想しては、だらしない顔をして鼻の下を伸ばす。

 妄想だけでこれだ。実際に目にしてしまったら……どうなってしまうか、自分でもわからなくて怖い。


(っ……でも、見てみたいっっ!!!)


 そんな欲望と不安な気持ちを混同させながら、だらしなく鼻の下を伸ばした不気味な笑顔で1人頭を抱えて身悶える。


 お気付きだろうか? 最近の俺のマスト顔は、『ロリコン変態野郎』になりつつある。

顔面だけで言ったら、もはや立派な犯罪者。3年連続ミスコン優勝に輝いた威厳はみる影もなく消え失せ、無残なものだ。


 そんな理由からか、残念ながら美兎ちゃんからデートのお誘いの声がかかることもなく……。ちょうど大和に誘われていたのと、必死な形相の健に懇願されたのもあって、今、こうして男女6人で夏祭りに遊びに来ることになったのだ。


 景品としてカラフルなマシュマロが詰まった袋を受け取ると、俺の元へと近寄ってきた未来ちゃん。


「あ〜ぁ、惜しかったなぁ〜。マシュマロだって。……瑛斗くん、食べる?」

「いや、俺はいいよ。ありがとう」


 正直言って、甘いものは得意ではない。ニッコリと微笑みながら断ると、「そっか」とだけ答えて健の方へと歩み寄ってゆく未来ちゃん。

 そんな光景を黙って眺めていると、デレデレとした顔の健が嬉しそうにマシュマロを一粒掴み取った。そしてそのまま俺へと視線を移すと、嬉しそうな顔をしてこちらへと近付いてくる。


「……なぁ、瑛斗っ。未来ちゃんて、可愛いよなぁ〜」


 ご満悦な表情の健は、デレデレとした顔を俺に向けると鼻の下を目一杯伸ばした。


 今回のこの企画は、夏祭りデートと称したいわば合コンのようなもので、彼女が欲しいと煩《うるさ》く喚《わめ》く健の為に、大和とその彼女が気を利かせて用意してくれたものなのだ。

 肝心の未来ちゃんにその気があるかは別としても……お目当ての女の子が見つかった健のことは、素直に喜ばしく思うし応援してやりたいとも思う。


 ちゃんとしていればそこそこにイケメンな部類ではあるし、彼女ができるのもそう遠い未来ではないだろう。


「良かったな。頑張れよ、健」

「おぅっ! ありがとな、今日は来てくれて!」

「……まっ。来たからには、お前に協力してやるよ」

「マジでありがと〜っ、瑛斗! 流石は心友っ! これからも、ズッ友でいてくれよなっ!」

「そんなの当たり前だろ。何言ってんだよ、バーカ」


 嬉しそうな笑顔を向ける健から視線を外すと、前方にいる大和達に向けて視線を移してみる。すると、そんな俺の視線に気付いた大和は、「後はよろしく」と告げるとニッコリと微笑んだ。


「おう、任せろ」


 そんな大和に向けて親指を立てると、自信に満ちた顔でニヤリと微笑む。


「……なぁなぁ、瑛斗」


 隣りから聞こえてきた声に視線を向けると、ハート型のピンク色をしたマシュマロ片手に、ニヤリと不気味に微笑えんだ健。


「おっぱい……♡」


 プニプニとマシュマロを指で挟みながら、嬉しそうに鼻の下を伸ばしている。


「…………」


(だから……。お前に女ができないのは、そーゆーとこな)


 低能すぎる発想に、投げかける言葉すら見つからない。


(なにが、おっぱいだ……)


 長いこと女っ気がないせいか、ついに頭がおかしくなってしまったらしい。それは、どう見たってマシュマロだ。


 嬉しそうにマシュマロをプニプニとさせている健を見て、哀れすぎて涙が出そうになる。

 誰がどう見ても、今の健は変態そのもの。何度も言うが、ちゃんとしていれば健はそこそこにイケメンなのだ。


 これは一刻も早く彼女を作ってやらねば、俺よりも先に健が犯罪を犯してしまいそうだ。

 健の不気味な笑顔を前に妙なシンパシーを感じ取った俺は、『類は友を呼ぶ』なんて言葉を薄っすらと頭に思い浮かべる。

 ……嘘だと信じたい。


(俺も……っ。美兎ちゃんの前で、こんな不気味な笑顔を……?)


 健の不気味な笑顔を前に、ヒクリと口元を痙攣らせる。


「っ……、やめろっ」


 パシリと健の手を叩《はた》くと、その反動で地面へと落下したマシュマロがコロコロと転がってゆく。


「あぁーー! 何すんだよ、バカッ!」


 バカはお前だと、健に言ってやりたい。


 地面から拾い上げたマシュマロにフーフーと息を吹きかけながら、「もう、食えねぇよ……」と本気で嘆いている健に哀れみの目を向ける。

 なんだか、その姿が自分と重なって見えたのは……きっと、気のせいだ。そう自分に言い聞かせると、健から視線を逸らして前を向く。


 ———!!!


 逸らした先に見えてきた人物の姿に驚き、俺の瞳はカッと見開くと瞬時に血走った。


(あっ、あれは……!! 間違いなく、うさぎちゃんっっ!!!!)


 目の前に見えるのは、可愛らしいピンクの浴衣を着た、マイ・スウィート・エンジェル♡ その傍《かたわ》らには、悪魔改め、最近百合へと改名した花が添えられている。

 まさか、こんな所で遭遇しようとは願ってもいない奇跡。


 いや——これはまさに、ディスティニー!


 お陰様で、妄想でしか拝めなかった浴衣姿も、こうして実際目にすることができたのだ。これはやはり、運命と言っても過言ではないだろう。


「…………」


 だだ、俺の妄想と唯一違っていたことといえば、美兎ちゃんの頭にお面が付いているという事。


(何故……、波平……?)


 『サザ◯さん』でお馴染みの『磯◯波平』のお面を見つめながら、暫し沈黙したまま困惑する。

 流石は美兎ちゃんだ。ハイセンスすぎて、俺には到底理解ができない。


 だが——。

 どんな美兎ちゃんであろうとも、一生愛し続ける覚悟と自信だけはある。なんならいっそのこと、『波平』ごと愛したっていい。

 それだけ、美兎ちゃんのことを愛しているのだ。


(あぁ……っ!! なんて、可愛いんだっ♡♡♡)


 ハゲたおっさんを頭に乗せているというのに、こんなにも可愛く見えるのは、世界中どこを探したって美兎ちゃんぐらいしかいないだろう。

 その眩しさに思わず目を眩《くら》ませると、フラリとよろけながらも昇天しかける。


 浴衣の破壊力とは、想像以上に凄まじい。

 『波平』のハゲ頭効果もあるせいなのか、いつにも増して美兎ちゃんが輝いて見える。こんなに沢山の群衆に囲まれているというのに、ギンギンと光り輝く天使を前に、俺の下半身はもはや爆発寸前にギンギンだ。


(こっ、これが……っ! 愛故の、羞恥プレイ……ッッ!!?)


 ならば、甘んじて受け入れる以外俺に残された選択肢はあるまい。

 そう覚悟を決めると、ズキズキと痛みだした股間をモジモジとさせる。


 そんな耐えがたい苦痛の中でも、『波平』を頭に乗せた美兎ちゃんの姿を眺める俺は、その神々しくも光り輝くオーラに目を細めながら、美兎ちゃんの浴衣姿に見惚れて目一杯鼻の下を伸ばしたのだった。


君は愛しのバニーちゃん

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