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#ワンナイトラブ
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カーテンの隙間から差し込む、容赦のない朝の光に、私はゆっくりと瞼を開けた。
視界がひどくぼやけているのは、眼鏡がないせいだけではない。
昨夜、京介に何度も名前を呼ばれ
深い場所まで暴かれ、翻弄された記憶が、強烈な熱を持って脳を支配しているせいだ。
「……起きたか、志乃」
隣から響いた低く、どこか満足げな声に
私は弾かれたように跳ね起き、慌ててシーツを首元まで引き上げた。
そこには、既にシャツだけを羽織り
乱れた髪のまま余裕の表情を浮かべた京介が、こちらを見下ろしていた。
「あ……。おはよう、ございます……」
「家では敬語はいらないと言ったろ」
彼は喉の奥で低く笑うと、私の額に深いキスを落とした。
そのまま、淹れたてのコーヒーの香りが漂うキッチンへと、優雅な足取りで向かっていく。
私は火照る顔を両手で隠し、必死で「シゴデキ秘書」の仮面を被り直して、逃げるように出社した。
けれど、いつものようにシルバーフレームの眼鏡をかけ
完璧に仕事をこなしていても、肌に残る熱だけがどうしても消えてくれなかった。
◆◇◆◇
午後の休憩中
一息つこうと給湯室でため息をついていると
営業部の若手ホープである佐々木くんが親しげに話しかけてきた。
「氷室さん、お疲れ様です。……あれ、今日なんだか雰囲気違いますね? 以前より少し柔らかくなったというか、すごく……綺麗です」
「えっ、そうかしら……。ただの寝不足よ、気にしないで」
「もしよかったら、今度のプロジェクトの打ち上げ、二人でどうですか? 氷室さんの的確なアドバイスが欲しくて」
真っ直ぐで疑うことを知らない青年の視線に
私はどう答えるべきか戸惑った。
しかしそのとき
背後から音もなく、氷のような冷気が漂ってきた。
「……佐々木。営業の数字もそれくらい熱心に追ったらどうだ?」
振り返ると、そこにはいつの間にか京介が立っていた。
感情を消した無表情。
けれど、その瞳の奥は社内での彼からは想像もできないほど鋭く、険しく、燃え盛っていた。
「あ、青桐社長!失礼いたしました。……では、氷室さん、また後で」
佐々木くんが逃げるように去った後、京介は無言で一歩踏み出し、私を給湯室の隅へと追い詰めた。
「きょ、京介、様……ここは会社です。誰かに見られたら……」
「わかっている。だが、志乃。……お前は俺の妻だ。他の男に、そんな無防備な顔で口説かれるのを黙って見過ごすほど、俺は寛容じゃない」
彼は私の腰をぐいと引き寄せ
ブラウスの下で眠る指輪のチェーンを、布越しに指先でゆっくりとなぞった。
「夜だけじゃない。オフィスでも、お前のすべてが俺のものだと、もう一度骨の髄まで自覚させなきゃならないようだな」
耳元で囁かれた、剥き出しの独占欲。
周囲に誰かが来るかもしれないというスリルの中で
私は彼の射抜くような眼差しに、またしても抗う術を失っていた。