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京介との甘く危うい秘密を抱えたまま
私はいつものように冷静沈着な「氷室秘書」という役割を完璧に演じていた。
けれど、内側では昨夜の熱が疼き、彼の何気ない視線ひとつに翻弄される自分がいる。
その揺らぎを悟られぬよう、私は今まで以上に眼鏡の奥の瞳を冷徹に保とうと必死だった。
そんな中、CEOルームに現れたのは
無機質なオフィスに似つかわしくない、私とは正反対の輝きを放つ女性だった。
「京介さん! お久しぶりです」
華やかな香水の香りと共に現れたのは、大手取引先の令嬢であり、モデルも務めるという西園寺麗奈。
彼女は秘書である私の制止など意にも介さず
躊躇なく京介の腕に絡みつき、親しげに、そして甘く微笑んだ。
「麗奈か。アポイントもなしにどうした」
「冷たいわね。お父様から、京介さんが『身を固めた』っていう噂を聞いて、居ても立ってもいられなくなったのよ」
麗奈の鋭い視線が、部屋の隅で控えていた私に突き刺さる。
彼女は私を値踏みするように一瞥すると、嘲笑を込めて鼻で笑った。
「まさか、隣にいるその地味な秘書さんが『お相手』なんて言わないわよね?」
「京介さんに相応しいのは、私のような、あなたのキャリアを完璧に支えられる格上のパートナーのはずだわ」
胸の奥が、冷たい針で突かれたようにちくりと痛んだ。
分かっている。
彼女の言うことは、客観的に見れば正しい。
私はただの契約上の代用品
ビジネスを円滑に進めるための「駒」に過ぎないのだ。
「……失礼いたします。次のお客様の準備がございますので」
私は静かに頭を下げ、逃げるように部屋を退出した。
給湯室で冷たい水を飲み、昂る感情を抑え込もうとする。
けれど、今まで感じたことのない、どろりとした黒い感情───
「嫉妬」にも似た嫌な感情が、濁流のように私を支配していた。
(私は、彼にとっての便利な仕事道具。それだけなのに……)
その日の夜
マンションのリビングで所在なく書類を整理していると、背後から音もなく近づいてきた京介に力強く抱きしめられた。
「……志乃。今日、麗奈が言ったことは気にするな」
「……気にしてなどいません。彼女の言う通り、私よりも彼女のような華やかな方の方が、お似合いだと思いますし。…経営戦略的にも、メリットが大きいのでは?」
思わず口から出た言葉は、自分でも驚くほど冷たく、刺々しい響きを帯びていた。
京介は私の体を強引に反転させ、視界を遮る眼鏡を外して、私の瞳の奥を逃さず覗き込む。
「……嫉妬か?」
「まさか、違います。私はただ、契約を忠実に守っているだけです……っ」
逃げようとした私の唇を、彼が荒々しく塞いだ。
それは今までになく強引で、それでいて私を繋ぎ止めようとする切実な必死さが混じったキス。
「俺が選んだのはお前だ、志乃。……俺の前で、他の女の名前を出すな」
低く、獣のような独占欲を孕んだ声。
契約という名目の安全な盾が、嫉妬という名の嵐にかき消されていく。
私は、彼という存在を失うことがこれほどまでに怖いのだと、初めて自覚してしまった。
#ワンナイトラブ