テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それから数日後。2025年8月1日金曜日。
MW9月号が発売された。
もちろんそれには龍河が執筆したカルネアデスバスの記事も掲載してある。
◇ ◇ ◇
都市伝説カルネアデスと狗頸バスジャック事件の意外な関係性!
2000年7月25日、インターネット匿名掲示板、6ちゃんねるのオカルト板に「選択行きとかいう変なバスを見かけた」というスレッドが立ち上がった。
これがカルネアデスバスの初の目撃証言である。
投稿によれば、終電後の深夜に徘徊する無人のバスで、行き先表示には「選択」の文字が浮かんでいるという。
結論から申し上げると、このカルネアデスバスは7月25日から約49日前の6月7日、東京都狗頸市で起きた「狗頸バスジャック事件」で命を落とした運転手、西鉄雄さんが化けた姿だ。
西さんの魂は仏教でいう四十九日を過ぎ、なお霊として現世に留まり、バスに化けて姿を現した。
6月7日の悲劇からちょうど49日後の7月25日に最初の目撃談が6ちゃんねるに投稿されたのだ。
眉唾な話だと笑うかもしれないが、どうか最後まで読んでいただきたい。
狗頸バスジャック事件は2000年6月2日の正午に狗頸市を走る路線バスが乗っ取られ、運転手の西鉄雄さんと乗客20名が人質となった事件で
西さんは犯人から「乗客の命か、お前の命か、選べ」と拳銃を突きつけられ、乗客の恐怖の視線が突き刺さる緊迫した状況下で西さんは誰も予想し得ない決断を下した。
自ら拳銃を手に取り、乗客の命を守る為に自らの命を絶ったのだ。
この事件は連日メディアを騒がし、公共交通の安全対策を見直すきっかけとなった重要な事件だ。
その事件で西さんは自らの命を代償に乗客20名の命を救った。
しかし、それは同時に乗客20名に死の瞬間を目撃させてしまったという事にもなる。
私は知り合いの霊媒師の力を借り、西さんの霊とコンタクトを取る事に成功し、西さん本人の言葉を聞く事ができた。
彼は「乗客の皆様に人が死ぬ瞬間を見せてしまった。それが申し訳ない」と語った。
20人の命を救った英雄であるにもかかわらず、彼は自らの選択が乗客に与えた心の傷を悔やみ、罪悪感に苛まれている。
西さんの葛藤は単なる後悔ではない。
それは命の価値を誰よりも深く理解した男の終わりなき自問自答だ。
「私の選択は正しかったのか?」
「乗客の心にトラウマを刻んでしまったのではないか?」
「別の道はなかったのか?」
彼の魂はカルネアデスバスの車輪と共に、答えのない夜道を走り続ける。
この苦悩を知った時、私たちはただ涙するしかない。
英雄とはかくも重い十字を背負う存在なのだ。
西さんの葛藤は私たちに問いかける。
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
命の選択とは何か?英雄とは何か?
彼は自らの命を投げ打ち、20人の未来を守った。
しかし、その代償として彼の魂は今も「申し訳ない」と呟きながら真夜中の国道を彷徨う。
だからどうか忘れないでいて欲しい。
命を挺して乗客を守った英雄がいた事を。
それが出来るのは、生きている我々しか居ないのだから。
私は彼の行動を讃える。
◇ ◇ ◇
記事はこう締め括られていた。
そしてこの記事は瞬く間にSNSで拡散された。
しかしネットユーザーの反応は辛辣なものだった。
──────────────────
どんな事でも記事にする、それはライターにとっては必要な事なのかもしれないけどさ、人としてどうなんだろうか?つーか、よく編集部はこれを許したよな。
#MW編集部
──────────────────
確かにカルネアデスバスの噂は、6ちゃん全盛期の頃からちょくちょく、話題にはあがってたけどさ、あのバスジャックの時に亡くなった運転手が、バスに化けたは無理矢理すぎて草生えるわ
#MW編集部
──────────────────
あのバスジャックはリアルタイムでニュース見てたからよく知ってるけど、あの事件だけはネタにしちゃいかんだろ。というか知り合いの霊媒師の力を借りて霊とコンタクトってなんや(笑)名前言えよ!どこの誰だよバカタレがよ!
#MW編集部
──────────────────
霊貴冥孤の件は言ってしまえば結果論だったから仕方ないとは言え、この件はさすがに擁護できんわ。人の死を冒涜してると言われても言い訳できんやろ
#MW編集部
──────────────────
人の墓掘り起こして食う飯は美味いか?あ?インチキ記者がよ!良い加減にしろよ!人の心とかないんか?マジで!人としてやってる事終わってるるよ!
#MW編集部
──────────────────
遺族の事を考えてたらこんな記事安易に書かないだろ普通。て事は結局ネタになるんなら人の死を利用しても良いって思ってるって事だよな。マジで人として最下層だよなマスコミ関係の人間って。
#MW編集部
──────────────────
霊貴冥孤の一件で炎上していた事が災いして、トレンド上位にMW編集部の名前が載るほどに炎上した。
しかし、この炎上はとあるひとつの投稿により完全に鎮火した。
それは龍河のアカウントから『#西鉄雄さんをさんを忘れない』というハッシュタグと共に投稿された一本の動画。
内容は龍河が車内で鉄雄と会話していた一部始終が録音された、ボイスレコーダーを再生するものだった。
最初こそAI音声疑う声が見られたが、鉄雄の遺族とバス会社の人間が本人の声で間違い無いと正式に声明を出した事で、SNSでは鉄雄を偲ぶ声が「西鉄雄さんを忘れない」のハッシュタグと共に大量に投稿された。
コメント
1件
×××さん、こんばんは、みぅです🖤 今回のエピソード、めちゃくちゃ重かった…。龍河の記事に対するネットの反応、辛辣すぎて読んでるこっちまで胸が痛くなった。でも、西鉄雄さんの“乗客に死の瞬間を見せてしまった”って罪悪感、すごく刺さった。英雄って言われても、本人は違う苦しみを抱えてるんだなって。 最後の録音データで空気が一変したところ、鳥肌立ったよ。この展開、本当にうまい…🥀