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運命? 巫山戯んな、俺は絶対認めない。こんなの運命な訳がない。
そう言ってやりたかったが、火に油注いだところで……いいや、こいつには無視が一番だと思って睨み付けるだけで相手の出を伺っていたが、朔蒔には無視なんて物効かないようで、一人でどんどんと話を進めていく。
「見れば見るほど、興味が湧いてくるな。星埜って」
「……」
「つか、学校ってつまんなくね? 早退しようぜ、早退」
俺の腕を掴み立ち上がらせようとする朔蒔だったが、俺はそれを振り払った。すると、朔蒔は目を細め不機嫌そうな顔を見せた。
しかし、それでもまだ教室にいるクラスメイトの視線がある為か声を荒げることはしなかった。
「ふーん、俺と遊んでくれねェの。んじゃ、ここにいる奴ら片っ端から殴っていったら、星埜は俺と遊んでくれる?」
「お前……ッ」
あまりにも物騒且つ残忍な事をケロッとした顔でいうので、思わず怒りに震えてしまった。こいつは本当に頭がおかしいのだと再認識する。
昨日もそうだったが、まるで善悪を知らない子供のように。
また事を起こせば停学……いや退学にだってなる可能性もあるのに、此奴はそんなことどうだって良いようにニコニコと俺の返答を待っていた。
「俺ね、星埜と一杯遊びたい。カラオケ行ったりとか、バッティングセンターいったりだとか、タピオカ? ってやつ飲んだり、あまーいクレープ食ったりしたいの」
と、朔蒔は自分の欲望を吐き出すかのように次々と言葉を口にした。
どれもこれも普通の高校生がするようなことで、狂気は感じられないのだが、朔蒔がいうとどうも危ない香りしかせず、俺の中で警鐘が鳴り響く。
可愛いこと言っているのに、何処か危険で近寄りがたい。そう感じながら、もし頷かなければ今にでも近くのクラスメイトから殴っていきそうだと思った。
朔蒔は暴力平気で振るう。それは昨日の一件でよく分かった。自分の意見を通したいときに、機嫌が良くても悪くてもすぐに言葉より先に手が出る。だからこそ、周りに被害が及ぶような事は避けたかった。
「…………分かった」
「え!? マジで!」
俺の言葉を聞いた瞬間、朔蒔は嬉しそうに笑った。
その笑顔は無邪気そのもので、先ほどまで片っ端から殴ると言っていた人間とは思えなかった。
俺の返答に満足したのか、朔蒔は俺の手をグイグイと引いて早く行こうと立ち上がらせようとする。遊びに行く約束はしたが、今とはいっていないため、俺は頑に立ち上がるものかと力を入れる。しかし、朔蒔に力でかなうはずもなく、机後と引きずられるように俺は朔蒔に腕を引かれる。
「待って!」
そう、俺と朔蒔の間に割って入るように声を出したのは、楓音だった。楓音は朔蒔の方に体を向けると、真剣な眼差しを向けた。
俺の腕を掴む力が弱まったので俺は立ち上がり、楓音の隣に立った。朔蒔は邪魔された事が不服なのか、面倒くさそうな表情を浮かべていた。
「邪魔すんなよ。殴られてェの?」
「……星埜くんが嫌がってる。後、ここ学校だし、授業はちゃんと受けなきゃダメ」
はっきりとそう、楓音は朔蒔に向かって言うと朔蒔は苛立った様子を見せるが、それでも楓音を殴ったら俺がどう動くのか予想がついたらしく、拳を振り上げることはなかった。
「なァなァ星埜ー、こいつ星埜の彼女?」
楓音に守られるように後ろにいた俺にひょいと朔蒔は顔を覗かせ聞いてきた。
「ちょっと、僕は男だけど」
「ほへーお前、男? 制服女子のじゃん。まあ、そこら辺の女子よりかわいいーかもだけど」
と、小馬鹿にするように朔蒔は笑うと楓音を押しのけて俺の方へとやってきた。
楓音は少しよろけるも、しっかりと踏みとどまり、朔蒔を睨みつけた。
そんな楓音の視線なんてなんとも思ってないように、俺の腕を掴むと、その真っ黒な熱っぽい瞳は俺だけを捉えていて、まるで彼の世界には俺しかいないように思えた。
しかし、朔蒔は俺が思っていたよりもずっと行動的で、俺を教室の外に連れて行こうとする。
「だからッ! 手、約束はしたが今とはいってないだろ! 授業はちゃんと受けるんだ!」
「いいじゃん、一日ぐらい。何? 皆勤賞狙ってる感じ?」
と、朔蒔は俺の話を聞くことなくどんどんと歩いていく。
(この馬鹿力~~~~ッ!)
楓音が後ろで何か叫んでいるようだったが、それも無視して朔蒔は俺を引っ張っていく。このままではまずいと思い、俺は抵抗するべく、思いっきり足に力を入れた。
「いい加減にしろよッ!」
俺の声は廊下にこだまし、何事かと他のクラスの人達は教室から廊下をのぞき初め俺たちは一気に注目の的となった。
「何が? 約束したじゃん、俺と遊ぶって。嘘ついたの?」
「違う! いっただろ、放課後まで待てって!それに、お前……停学して多分授業日数とか考えたほうがいいんじゃねっていう話。進級できなかったら如何するんだよ」
「別にイイじゃん、星埜には関係ねェし。ほんと、良い子ちゃんでウケる」
と、朔蒔は鼻で笑いながら、俺の方を指さしていた。
笑ってろ。と思いつつ、同級生で進級出来ない奴が、それも後ろの席の奴が出来ない何て俺の中のプライドが許さなかった。停学食らうような問題児なんだし、放っておけば良いのに、俺はついつい手を差し伸べそうになる。やめておけば良いのに本当に。
口が腐る事を重々承知の上で俺は朔蒔に吐き捨ててやった。
「ダメだ……俺が嫌だ。俺はお前を進級させたい。だって、あれ……だろ、その、せっかく同じ学年の近くの席で、ほら、だから……俺はお前と同じクラスがいいし、俺と一緒に進級しろ」
自分で言っていて恥ずかしくなってきた。
顔が熱い。きっと、今の俺の顔はリンゴのように赤いだろう。
しかし、朔蒔の反応がない事に俺は不思議に思うと、朔蒔は俯いて震えていた。まさか、怒っているのかと俺は身構えたが、次の瞬間俺は胸倉を捕まれそのまま唇を塞がれていた。
「……んんッ!?」
一瞬の出来事で俺は何をされたのかわからなかった。柔らかい感触だけが妙に生々しく残り、俺はただ呆然と目の前の男の顔を見ていた。
「ハッ♥ やっぱ、お前最高ッ♥」
そういって、俺の前で満面の笑みを浮べた朔蒔は周りの視線など気にする様子もなく、ただただ俺を見つめていた。