この作品はいかがでしたか?
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本編はPルートの地上を出た後の世界線で親善大使として活動をするフリスクのお話になります。
サンフリ描写を含みますので、苦手な方は読む事をお勧めしません。
ふと腕時計を見ると、時刻は午後7時を少し過ぎたくらいを指していた。
ついさっきまで午後1時だった気がしたのに、時間の経過というものは本当に早いな。
窓の外を見れば時刻を裏付けるように日は沈みきって、星も幾つか瞬いている。
高々と建物が並ぶこの街も今は12月を迎えてすっかり雪化粧が施され、とても寒い。
時計と窓の外を交互に見つめて、深めのため息をついた。
… はぁ 今日は早く帰れないかも … 。
頭に浮かぶのは、同居相手のサンズの顔。
同居と言っても正確には、自分が一方的に居候しているだけだけれど。
サンズの家は自分が勤める事務所にとても近かったから、必死に頼み込んで一緒に住まわせてもらう事になった。
何だかんだで受け入れてくれるサンズはやっぱりやさしいし、頼りがいがある。
そんなサンズに対して自分が淡い恋心を抱いているのは 誰にも内緒の秘密。
明後日は親善大使としての大事な会議があって、そのための資料作りに手間取っていた。どうしよう、もっと詳しい資料が必要なのに…。
モンスターと人間を繋ぐために、この会議だけは絶対に失敗したくない。
もう一度深くため息をつけば、再び自分のデスクに向かった。
もう一度腕時計をみると時刻は午後10時30分をとうに過ぎている。
資料作りと論文制作も程々に切り上げて、また明日に託すことにした。
事務所を出ると、低気圧に冷やされた風が容赦なく身体にぶつかってくる。
その冷たさに思わず身震いをした。
この中を一人で帰らなければならないと思うと、ほんの少し寂しい。
ふわりと白く広がる自分の吐息をぼんやり見つめて、帰路に着く一歩を踏み出す
… と、自分のすぐ後ろから 聞き馴染みのある声が掛かった。
今一番聞きたかった声が。
『 よう フリスク 、お疲れさん 。ようやく仕事終わりか ? 』
『 … !え 、サンズ ?!迎えに来てくれたの … ? 』
『 アンタがいつもの時間に帰って来ないから 、様子を見に来たんだ 。へへ 、来て正解だったな 。 』
夢なんじゃないかと思った、けど目の前にいるのは間違いなく頭に浮かべていた当人そのもので。
いつもと変わらない表情を浮かべて自分に近寄ってくる。
その手には何やら色々持っているみたいだ。
『 マフラー持ってきたんだ 、今日は冷えるらしい 。
オイラは元から骨だから関係ないけどさ 、アンタの骨身には染みるだろ ? 』
『 ふふ 、何それ っ 。でもわざわざありがとう すごく助かるよ 。 』
サンズはケラケラと笑って 手に持ったマフラーを自分に巻いてくれた。
その距離の近さに無意識にも鼓動が速まるのを感じて、サンズの顔を見れなくて。
どうしよう、あからさまな態度を取ったら きっとサンズに気付かれてしまう。
だからなるべく悟られないように サンズが巻いてくれたマフラーに顔を埋めるようにして赤くなった頬を隠した。
すると、ついでにと言ってサンズは自分に温かい缶ココアを差し出して笑いかけてくる。
あぁ もう、こういう所だ。
こういう時サンズはいつもずるい、ずるくて格好良いんだ。
いつも自分が望んだことをいとも簡単に叶えてしまう。
寒さを凌ぐマフラーも
温かくて優しいココアも
サンズに会いたいという自分の気持ちも 。
全部全部、何もかもお見通しみたいに自分に与えてくれる。
その優しさが、より自分の心を切なく締め付けていることなんてきっと知らないんだろうな。
そんなだから、自分みたいな人間に好かれちゃうんだよ。
『 さてと 、雪でも降ってきそうな雰囲気になってきたし そろそろ帰るか 。 』
『 あ … ほんとだ 。そうだね 帰ろっか 。 』
『 へへ … 相当疲れきったカオしてるな 、やっぱり大変なのか ?親善大使ってのは 。 』
『 うん 、すごく大変 … 。毎日色んなところに出かけてモンスターみんなのことを宣伝しに行ったり 、モンスターたちが人間と同じ様に生きられるように法案を出したり … やらなきゃいけないことはたくさんで 。 』
『 そりゃ大変だな 。けどアンタがそうやって頑張ってくれてるおかげでみんな生き生きとしてるよ 、いつもありがとうな フリスク 。
アンタは本当によく頑張ってると思うぜ 。』
『 えへへ … そうかな ?そう言ってくれると頑張ってる甲斐があるなぁ 。
… 明後日は 、親善大使としてすごく大事な会議があるんだ 。その会議の結果で 、モンスターみんなの未来が決まる 。だから絶対失敗出来ないの … 』
『 だからこんな時間まで一人で事務所に篭もってたのか ? 』
『 うぅ … だって 、まだ資料が足りなくて … 。 』
『 張り切るのはいいが 、それならもう少しオイラを頼ってくれよ 。アンタ携帯持ってるだろ ?オイラの電話番号登録しておいたから 、それでいつでもオイラを呼んでくれ 。 』
『 え 、そうだったの !?ちょっと待って ……
あ 、 ほんとだ … 。いつの間に ? 』
サンズの言葉を聞いて思わず自分の携帯を確認したら、その電話帳には確かにサンズの電話番号が登録されていて。
驚いた反面、嬉しさがどんどん胸の中に込み上げてきて、自分を満たしていく。
半分夢見心地で携帯の画面を見ていると、何処か照れくさそうなサンズが後ろ頭を掻いて 弁解する様に口を開いた。
『 あ ー …まあ なんだ 、一応アンタの事はオイラが一番近くで見てきたつもりだからな 。オイラたちのためにって毎日コツコツ頑張ってる姿見てたら 、オイラも何か アンタに返さないとって思ったんだ 。』
『サンズ っ …… 。』
まさかサンズがそこまで考えていてくれたなんて思いもしなくて、かあっと胸が熱くなっていった。
どうしようもなく嬉しくて今すぐにでもサンズに抱きつきたい気持ちを、手に持った携帯を大切に胸に押し付けるだけにして留めた。
───── あぁ 、好きだなあ … 。
この愛おしさを直接伝えるなんて、きっと今の自分じゃ無理だけど。
けれどせめて、密やかに想う事だけは許してほしい。
ひらり
ひらり
小さな白い雪が舞い降りてくる。
自分の頬に触れてゆっくり溶けていくそれは、不思議なくらい冷たさを感じなかった。
降ってきた雪を見て苦笑いを浮かべるサンズの横顔をそっと横目に見て、また想いを馳せる。
その優しさに惹かれるんだ。
今までも
そしてこれからも。
________ THE END _______
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