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「え?」
その言葉につられて、私はすぐ横を歩く店長の顔を見上げた。
すると、店長はそこでピタッと歩みを止め、私の目をジーッと見つめた。
その顔と顔の距離、ほんの数センチ――
あまりの近さに思わず体がガチガチに固まる。
目を逸らすにも逸らせなくて、そのままただ店長と見つめ合うしかなかった。
「目、ハートになってないね」
「え? えっ?」
バカみたいに2度聞き返すと、
「僕には脈が無いのかな?」
そう言って、一瞬、切なげな顔をしてから、ニコッと笑った。
さっきまで私を見ていた目が、眼鏡の奥で少しだけ細くなる。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。店長、私をからかってますよね?」
「琴音ちゃんのことを? からかってるつもりはないけど? ただ、君の目がハートになってたら嬉しいなって思っただけ。だって、今日君を誘ったのは下心があるからだしね」
「な、な、何を言うんですかっ、し、下心って……」
突然のことに、確実に心拍数が上がった。
「さあ、着いた。ここだよ。この店のパスタやピザ、すごく美味しいから」
ドアを開け、中に入る。
「あ、あの、下心って……」
私の質問が聞こえたのかどうかはわからないけれど、店長は何も答えてくれないまま奥の方に向かった。
もしかして、この感情はおいてけぼり?
さっきのやり取りの答え、聞かせてくれないの?
きっと、今、私1人が動揺している。
どうしよう、こういうのに全然慣れてなくてすごく困る。
「こちらでございます。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
店員さんが案内してくれた席は、隣との間に仕切り用のついたてがあり、周りからは見えないようになっていた。プライベート感のある閉ざされた空間のせいで、余計に2人きりな感じがして、さらにドキドキが増していった。