テラーノベル
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あんな酷いことを言った僕なんて、もう本当の本当にいらないって思われちゃう
そう絶望した、その時だった。
「───樤っ!!」
遠くから、僕の名前を呼ぶ絶叫が聞こえた。
荒い足音、乱れた呼吸。
視界の端で、誰かが猛然とこちらへ走ってくる。
「え……」
それは、紛れもなく卿だった。
彼は汗だくになり、必死の形相で僕の元に辿り着くと、そのまま膝をついて僕を抱きしめた。
「…っ、よかった、生きてた…っ、ごめん、ごめんねゆず……」
怒られると思っていた。
けれど、僕を包み込む彼の腕は、小刻みに震えていた。
「っ……っ…き、卿……っ?」
「こんな寒空に裸足で飛び出すなんて…って、怪我したの……っ?!」
「だ、大丈夫……だよっ」
「俺のせいだ、ごめんねゆず。すぐ医者に診てもらおう。病院連れてくから」
有無を言わさず、彼は僕の膝裏に腕を差し入れた。
「うっ……!」
擦りむいた膝が布に擦れ、鋭い痛みが走る。
僕が小さく呻くと、卿はより強く、僕を自分の体へと密着させた。
「……すぐに手当してもらうからね」
歯を食いしばるような声。
彼は僕を抱えたままタクシーを拾い、病院へと急いだ。
病院の消毒液の匂いが、現実に引き戻す。
「痛いのはこの辺?」「他にも痛むところは?」
問診の間も、卿は僕の手をずっと、壊れ物を保護するように握りしめていた。
看護師さんが呆れるほど過保護に振る舞う彼を見て
僕は自分の幼稚さが情けなくて、惨めで仕方がなかった。
治療を終え、重い沈黙の中でタクシーに揺られて家に戻る。
部屋の明かりを点けると、そこは数時間前と同じ「籠」だった。
けれど、何かが決定的に変わっていた。
卿は僕に水を差し出したあと、リビングの床に正座をして僕を見つめた。
「……ねえゆず、さっき言ったこと撤回させて」
彼の瞳は、かつてないほど真剣で、脆かった。
「君がいないと俺は駄目になるんだよ」
心臓が大きく脈打つ。
「君がいるとどんな仕事も乗り越えられる。君の笑顔があるから頑張れるんだよ。関係ないなんて言葉は二度と言わない。君なしで生きるなんて考えられない」
そこで卿は、深々と頭を垂れた。
その姿を見て、堪えていたものが決壊した。
「ううぅ…ひっく……!」
「置物」だなんて、思われてなかった
僕は彼の世界の中心に、ちゃんといた。
その重みと喜びが混ざり合い、過呼吸のような激しい嗚咽となって溢れ出す。
「ご……ごめっ…ごめんなざいっ……!」
「ゆずは何も悪くないよ」
「違うっ……違うの…僕っ……僕……!!」
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