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「美味しい……」
小さめのお鍋で30分ほど煮詰めたイチゴジャム。
スプーンですくって、ひと口味見をした。
イチゴの種類や量によって毎回少し味が違うけど……
いつだって手作りのイチゴジャムはすごく美味しい。
一人暮らしのマンションの部屋に備え付けられた狭いキッチンスペース。
私はそこでジャムを作り、そして、オーブンで焼いたパンを取り出す。
パン屋の店員としてのお給料はそれほど高くはないけれど、このオーブンだけは無理して良いのを買った。
香ばしい匂いに包まれたワンルーム。
私の至福の時。
焼きたてのクロワッサンに切り込みを入れ、そこに少し冷ましたイチゴジャムを塗る。
クロワッサンはそのまま食べるのが1番美味しいのかも知れないけど、甘酸っぱいジャムとの相性が私的にはバッチリで、大好きな組み合わせだ。
テーブルには、出来立てのクロワッサンとホットミルクティー。
「いただきます」
うん。
やっぱり、すごく美味しい。
3階の窓から、4月の暖かく柔らかな陽射しが入ってくる。
気持ちの良い朝を迎えて「今日も1日頑張ろう」って……そう思えた。
「このイチゴ。あの時拾ってもらわなかったら、一生この味に出会うことはなかったんだよね」
ビンに詰めたイチゴジャムを見て、私はしみじみと昨日のことを思い返した。
いつも行くスーパーで、とっても赤くてちょっと甘酸っぱそうなイチゴに目を奪われた。
『絶対、ジャムにしよ』
そう心に決め、買い物した食材達の上に、潰れないようにイチゴのパックをちょこんと乗せた。
いつものように自転車を漕ぎ出し、しばらく走ったところで、誰かの大きな声に気付いて振り向いた。
『ちょっと待って!!』
思わず驚いて自転車にブレーキをかけた。
私のすぐ横に来て体を90度にまげ、ハアハアと荒く呼吸をしている男の子。
かなり息があがってるみたいだ。
どうしたんだろ?
顔も見えないまま、その瞬間、その人は右手を私に差し出した。
何か持ってる。
『え? イチゴ?』
『……これ……落とした……』
息も切れ切れに、その人はそう言って、そして……
ゆっくりと体を起こした。
うわっ、可愛い顔。
『これ、私が落としたの?』
『……はい』
後ろのカゴを確認したら……
確かに、イチゴがない!
『嘘、これ拾ってくれたの?』
『あっ、はい。落とすの見えたんで……』
ニコッと笑う。
綺麗な二重の優しい顔立ちで、笑うと口角が上がってとても可愛い。
黒髪でショートマッシュにナチュラルな無造作パーマが良く似合ってる。
『私、どこで落としたんだろ? 全然気づかなかった』
『自転車、走り出してすぐですよ』
『えっ、嘘、すぐ?』
『はい。僕、あのスーパーでバイトしてて、すぐに追いかけたかったんですけど、他の人に品出しの商品頼んだりしてたら遅れて、急いで拾って走ってきました』