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永遠の別れ……辛いです…思わず、号泣してしまいました…。涙で枕がびしょびしょです… でもこれで良かったのですよね……これで依頼した彼女も前に進める…兄さんの罪も、少しでも変われば…命の重さとその儚さがよく伝わりました…。 (どうか兄さんが、来世は母さんと幸せになってほしい…でも、その中に早百合さんの笑顔もあることを私は願います。家族で幸せになる未来があってほしい…)
深夜。
拷問士に頼んでおいた場所で私が待っていると、一台の小型トラックがやってきて、黒い帽子を深くかぶった男が、中からやや細長い、大きな箱を引っ張り出してきた。
「こちら、約束のものでございます。」
「ありがとうございます。」
運転手はそのままトラックに乗り込むと、再び走り去る。
私は音を立てないようにして、その箱を慎重に開けた。
中から出てきたのは、全身の肉を削ぎ落とされ、ぼろきれのようになった兄。凍傷と、無数の鞭の跡が、ところどころにうかがえる。
「お兄ちゃん…。」
幸いその顔に、目立った外傷は少なかったが、骨が砕けて陥没した額に、母の形見であった青いちりめんの髪飾りが、血糊でべったりとくっついていた。
鮮やかだった青も、乾いた血で塗り固められ、どす黒い茶色に変化している。
自分でも気づかないうちに溢れ出た涙が、はらり、はらりと兄の顔に落ちると、溶け出した血糊と混じって、鉄錆色になりながら、その青白い頬を滑り落ちていった。
鍛え上げられた右腕とは裏腹に、短く、か細い左腕と、その先にある小さな手。骨が砕けて、思わず目を背けたくなるほど、醜くねじ曲がっている。
圭一が、この手で最後に握ったものが、どうかチャカではなくなるように…。
私は長いこと、兄の左手を握りしめていた。
どのくらいこうしていただろう。
やがて、東の空が薄紫色になる頃、私は特殊な薬品を染み込ませた布で兄の身体を丁寧に包み、その上からマッチの火を二、三度落とした。
激しく立ちのぼる青い炎と、鼻を刺すような匂いの煙。特殊な薬品により、火力は増す上、死体を焼く臭いは抑えられているが、もしも場所を間違えていたならば、すぐに怪しまれてしまうだろう。
燃え盛る炎は、私の顔を、熱でからからに干からびさせた。しかし目の下だけは、どれだけ長いこと炙られようと、いつまでも、いつまでも濡れていた。
やがて、骨一つ残すことなく、ひと山の白い灰となった兄は、そのまま風にさらされて、存在もろとも、この世から姿を消した。
後日、千賀が、依頼人の少女から預かったという、小さな箱を持ってきた。
「これは、こないだの娘さんから。お礼だって。」
「えっ、お礼なんて、私はいただけませんよ…。」
情報屋の千賀さえも、私と圭一の関係や、圭一が拷問された後のことは詳しく知らない。
「まあまあ、あの子は五月女さんに世話になったと言っていたんだ。気持ちぐらい、受け取ったらいいと思うよ。」
「うん…。」
そのまま千賀は立ち去っていった。
家に戻った私は、気乗りしないながらも箱を開けた。中に入っていたのは、デパートの地下などでよく見る、チョコレートやラングドシャクッキーの数々だった。
まだ母がいた頃、お中元か何かで、何度かもらったことがある。
気がつけば、兄の一番好きだった、緑色の袋に包まれたクッキーを取り出していた。
ふるえる指で包みを丁寧に剥がし、中から出てきたクッキーの角を、前歯でほんの少し囓る。
甘いはずのクッキーは、涙の味しかしなかった。
今度はもう少し、大きめに囓る。チョコレートを挟んだラングドシャクッキーなのだから、今度こそ甘い味がするだろう。
しかし舌に触れたそれは、やはり、しょっぱいような苦いような、薄い、奇妙な味を残して、音もなく呑み込まれていくだけだった。