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ゴブリンキングを倒した翌日。
シンヤとミレアは、冒険者ギルドを訪れた。
「よう、ユイ。ゴブリンキング討伐の件はどうなった?」
受付嬢であるユイに声をかけた。
「あ、シンヤさん……。いいところに来ましたね……」
ユイが暗い表情でそう言う。
「どうした? 何か問題でも発生したのか?」
「いえ、問題は何もありません。ただ、私は昨晩から徹夜で、疲れているだけです……」
「そりゃ大変。ま、これでも飲んで元気出しな」
シンヤはカバンから飲み物を取り出し、ユイに差し出した。
「ありがとうございます。ありがたくいただきますね」
ユイはそれを一口飲み、テーブル横に置いた。
「……さて、ゴブリンキングの件の報告をしましょう。複数の調査隊が出されましたが、ゴブリンキングの魔力反応が消失していることが確認されました」
「ほう。それはそれは」
「ゴブリンキングの棍棒はシンヤさんがお持ちですし、他にゴブリンキングを討伐したと主張するパーティもいません。シンヤさんの功績は無事に認められましたよ」
「そうか。そりゃあよかった」
シンヤはほっとした。
この世界における彼の目的は、魔法の鍛錬を積み極めていくことだ。
それにあたり、冒険者として功績を挙げ名を売ることは悪くない。
冒険者ランクが上がれば稼ぎが増すし、実力者たちと関わる機会も増えるだろうからだ。
「今回の功績で、シンヤさんはCランクに昇格となります」
「おお! Cランクか!」
シンヤは喜んだ。
Cランクそのものには対して魅力を感じていないが、ランクが少しずつ上がっていくことに喜びを感じるタイプなのだ。
「そして、ミレアさんもDランクに昇格ですね」
「ヤッタ!」
ミレアは嬉しそうに微笑む。
彼女もまた、冒険者ランクそのものにはさほど興味を持っていなかった。
だが、いつかシンヤに並び立てるような者に成長するという目標を掲げる上で、冒険者ランクというのは一つの目安になると考えていたのだ。
「あと、これが今回の報酬になります」
ユイが布袋を渡してきた。
「ありがとう。全部でどれぐらいの金額になったんだ?」
「金貨が三十枚入っています」
「マジで!?」
シンヤは驚いた。
日本円にして三百万円相当だ。
もちろん物価が異なるので、一つの目安でしかないが。
「はい。ゴブリンキングはそれだけ危険な魔物ですので」
「なるほどな」
シンヤは納得した。
確か、Cランク以上のパーティが複数で戦っても、死人を出さずに倒せるか怪しいレベルの敵だったはずだ。
それを倒したのだから、それなりの報奨金が出るというのも理解できる話だ。
「シンヤさんへのギルドからの報告は以上となります。ですが、これから一悶着ありそうですね」
「どういうことだ?」
「当ギルドに、シンヤさんに関する問い合わせが殺到しているんですよ。冒険者、商人、それから貴族様まで……。ほら、まずは後ろに……」
「え?」
振り返ると、そこには人混みができていた。
若い男が多いが、全体としては老若男女が入り乱れている。
冒険者達だ。
「お前がシンヤか!? 俺たちのパーティに入ってくれよ!」
「馬鹿野郎! 俺のところに来てもらえれば、毎日美味しいものを食べさせてやるぞ!」
「ほほ。儂らの魔導師パーティの前衛に来てくれれば心強いのう……」
「いいえ、彼は私達のパーティにこそ相応しいわ!」
「いいや、オレたち【白銀の狼】に決まってるさ!!」
そんな声が次々と聞こえてくる。
中には聞いたことのない名前もあった。
(なんだこりゃ?)
シンヤは困惑した。
だがすぐに気を取り直すと、人混みの方を向いて言った。
「悪いが、俺はパーティを組まない主義なんだ」
「何ィ!?」
「どうしてだよ!?」
男たちが詰め寄ってくる。
「そんなこと言って、そっちの獣人女と一緒に旅をしてるじゃない!」
「そうよっ! そんな獣臭い子より、絶対に私の方が……」
女がそう言いかけた時、シンヤの目がスッと細くなった。
「おい、今なんて言った?」
「ひっ……!」
シンヤが殺気を放ちながら言う。
「あ、あああああぁ…………」
女がガクガクと震え出した。
シンヤの殺気にあてられて、他の冒険者達も巻き添えで震え始めている。
彼の威圧感は、それほどのものだった。
「おい、シンヤ。その辺にしときなっテ」
ミレアが割って入った。
彼女の顔にも少しだけ怒りの色が見える。
「こいつはミレアのことを侮辱したんだぜ? 放っとけるわけがないだろ?」
「あたしのために怒ってくれているのは嬉しイ。だが、ここは抑えてくレ。この程度の言葉は気にしないようにスル」
グラシアの街一帯における獣人の立場はやや低いが、それでも差別的な扱いを受けることはほとんどない。
それどころか、冒険者ギルドにおいては身体能力の高い獣人は優遇されることが多いぐらいなのだ。
嫉妬混じりで差別的な悪態を吐かれることぐらいは、日常茶飯事である。
「わかったよ。ミレアに免じて、今回は見逃してやる」
「あ、ありがとうございますぅ」
「だが、次はないぞ」
「ひぃ……。ご、ごめんなさい」
シンヤが睨むと、女は謝った。
周囲の冒険者達も黙り込み、化け物を見るような視線をシンヤに向けている。
そして、シンヤの怒気によって図らずも人混みは解消されたのだった。