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「おい、お前いい加減にしろよ」
琥太郎が嫌味ったらしく無駄に長いため息をついた後、そう言った。
「ありゃうちの企画のまま決まったらデカかったぞ。だから営業部に任せずに俺らが出たんだろが」
「……わかってる」
「それをまぁいいように進められちまってよ。足元見られすぎだ」
琥太郎の苛立ちはもっともだ。
大手運送業者の業務用アプリの開発運用。『新しい時代を共に作る』をコンセプトに雅人の知名度も活用した共同CMの作成。
商談成立はしたもの、格下に仕事をさせてやるというスタンスを崩すことはできず、足元を見られた形での契約だ。
これでは開発部や営業部のモチベーションを上げることはできない。
「腑抜けたツラしやがって。そんな奴の下で働いてるつもりねぇわ」
そこまで言って、黙り込んだ琥太郎が車を発進させる。
夕方の混雑している時間帯だ。
思うように車は進まず、ずっと先にある青信号を何となく見つめながら目を閉じると。
「まあ、こっからは副社長やら営業本部長やらの肩書なしで。お前の大親友琥太郎様として語ってやるよ」
「……いつ親友になった」
「照れんなって」と、無駄にはしゃいだ声は、場の空気を読んでだろう。
不調や不機嫌の理由などとっくにバレているのだろうから。
「我慢ばっかは毒だぜ。許せねぇんならよ、なぁにが、お前なら安心だ、だよ。その辺りからずっとじゃねぇか、お前のやる気のなさはよ」
「……やる気がないわけじゃない」
「とかなんとか覇気なく言うトップのもとで働く奴らの身にもなれよ、世間で言うとこのイケメン社長さんだっけか?」
からかうような口調で琥太郎はニヤリと口角を上げた。
「で? 優奈ちゃん、出て行ったのか?」
「は?」
琥太郎に話した覚えはない。不信感が声に出たようだ。琥太郎は「待て待て、睨むな」そう言って、ハンドルから片手を離し雅人を制止する。
「あの子から聞いたわけじゃねぇよ。マキとそんな感じのこと話してたからよ、今朝」
――昨夜、雅人の父であるはじめが自宅マンション前に現れ、優奈を連れて立ち去った。
すぐに追いかけなかったのは、これでいいのではないかと思う自分が確かにいたからだ。
「俺の、父親のところにいる」
「はぁ!? だったらすぐ連れ戻しに行けよ、めんどくせぇ奴だな、んな明らか落ち込んでるくせによ」
「落ち込んでなどいない」雅人はすぐにそう言い返したのだが、琥太郎の耳には届いていない様子だ。