テラーノベル
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「……う、うん」
小さく頷きながら、じわりと湿った手のひらで皿を受け取る。
それにしても……
ここが禁断の地? 快楽の地?
どこが禁断なんだろう……。
この人たちって何者?
地位と名誉とお金が大好きな麗香のことだ。
どこかの企業の社長や重役の集まりなのだろうか。
……いや、社長や重役にしては若すぎる人もいる。
とりあえず目の前にあったローストビーフを皿に取りながら、ちらちらと周囲の様子を窺った。
「普通はまず料理じゃなくて飲み物だろ?」
突然、背後から男性の声がした。
私はびくりと肩を揺らし、恐る恐る振り返る。
サラダを盛り付けていた麗香は、顔だけを声の方へ寄越した。
「倫子、やっぱり来たんだな。ここはお前の餌探しの場所だからな。絶対来ると思ってた」
「……悠聖。あんたは何でここにいるの? ここの餌には飽きたんじゃなかったの?」
麗香は眉をひそめ、露骨に嫌そうな顔をした。
「俺は爺様の付き人。今夜は大御所にも会えそうな気がしてさ。久しぶりに人間観察しに来たんだよ」
男性は皮肉めいた口調で言ったあと、今度は私に視線を向ける。
「君は倫子の友人? 見かけない子だね」
「あ……はい。職場の……あ、えっと、友人です」
『身を明かすな』という言葉を思い出し、咄嗟に言葉を濁した。
「ああ、職場の同僚ね。俺の名前は悠聖。もちろんパーティー用の偽名だけど」
男性は目を細め、柔らかく微笑んだ。
「あ……私は彩音です。よろしくお願いします」
緊張で顔を強張らせながらも笑顔を作り、ぺこりと頭を下げる。
すると男性は、すっと私の耳元へ顔を寄せた。
「麗香と同じ病院のドクターだろ? 警戒しなくても大丈夫。俺も同じ。君と同じで、教授のジジイたちの飼い犬さ」
誰にも聞こえないほど小さな声で囁く。
耳朶と首筋をかすめるわずかな吐息。
――なっ、何っ!?
吐息が触れた首筋を反射的に押さえ、一歩後ずさった。
「あれぇ。倫子の友人にしては……なるほどね。面白いよ」
男性は私の反応を見て、にやりと意味深な笑みを浮かべた。
面白い……!?
なに言ってるの、この人……。
思わず目を見開き、身を縮める。
手を当てた首筋が、どくどくと熱い拍動を続けていた。
苛立ちを見せる麗香が私の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「ちょっと悠聖。彩音にちょっかいかけないで。 彼女は、あんたみたいな打算的で女たらしな男が触れていい女性じゃないんだから」
吐き捨てるように言い、男性を睨みつける。
「打算的? それはお前に言われたくないね」
男性はわざとらしく肩を竦め、軽く笑った。
「俺は彩音ちゃんに挨拶をしただけ。……ほら見ろ。倫子が騒ぐから彩音ちゃんが怯えてるじゃないか」
そう言って私に視線を向ける。
「だよね」
私の顔を覗き込むように言い、口元をほころばせた。
「彩音ちゃん? 彼女はあんたより年上! 気安く呼ばないで」
「えっ!? 年上……?」
「そうよ。私と同い年。大学の同級生」
「ってことは、俺より二つ上か……。倫子の後輩かと思ったよ」
彼は改めて私の顔をまじまじと見つめた。
「彩音ちゃん、童顔だね。肌も綺麗だし」
甘さを滲ませた笑みを向けられ、戸惑う。
「……どうも、ありがとうございます」
ぎこちない笑みを返すのが精一杯だった。
その後、男性は私と麗香にシャンパンの入ったグラスを渡し、軽く乾杯をした。
「そろそろお呼びが掛かる頃だから。また後でね、彩音さん」
そう言って笑顔を残し、立派な蘭の花が飾られた廊下の奥へ歩いていく。
――お呼びが掛かる?
シャンパングラスに口を付けながら、その背中を見送った。
「……倫子。あの人もドクターなんだね。もしかして、ここに集まってる人たちもみんな医療関係者?」
シャンパンで喉を潤しながら尋ねる。
麗香は飲み干したグラスをテーブルに置いた。
そして前菜の載った皿とフォークを手に、私の方へ身を寄せる。
「そうね。ほとんどが医療関係者。ドクターとナース、それから関連企業の上層部」
麗香は周囲に目を配りながら声を潜めた。
「会長や社長のご子息様やお嬢様もいるわ。ほら、あの露出度の高い真っ赤なドレスを着てる若い子。医療と深い関わりのある、大手企業の会長のお孫さんよ」
そう耳打ちすると、サラダをぱくりと口に入れた。
管野アリオ
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瑠璃マリコ
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コメント
1件
うわっ…11話、めっちゃ雰囲気変わったね!禁断の地って聞いてたのにまさかの医療関係者の集まりパーティー…。悠聖くん登場でドキッとした~声掛け方も距離感もなんか危ない感じだけど、同じ“飼い犬”仲間って言われてちょっと親近感湧く。麗香のあの警戒っぷりも含めて、この世界の“遊び”の正体がますます気になる…!