テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私──中川ホタルは冤罪をかけられている。
しかも、相手はクラスの姫。谷崎ハルナ。
容姿端麗・純粋無垢で、勉強はからっきしだが、そこが可愛いと評判の彼女だ。彼女からの冤罪は、数の暴力により「本当の罪」になる。
靴箱に入っていた手紙で、放課後に校舎裏に呼び出され、第一声は。
「あなた、ストーカー?」
***
日曜日明けの学校。そこら中が、憂鬱という感情でドンヨリとしていた。生徒同士の挨拶は、ダルいから始まり最悪で終わる。いつもは明るい村澤アカリも、不機嫌そうな顔して挨拶も適当。さらに猫背。
だが”彼女”がいれば、そこはサッパリとした、アルプスの草原にいるような空気に包まれる。
谷崎ハルナ。容姿端麗、純粋無垢。彼女の言葉はありとあらゆる悩みや不安を取り除き、雰囲気は周りの空気を浄化する。という噂。
村澤アカリも、谷崎ハルナが横を通っただけで顔がパーッと明るくなり背筋はピンと伸びる。なんという力なのだ。
一方私は。
「あっ」
廊下を歩いていた女の人と、ぶつかってしまう。
「うわっ!?」
私は微動だにしないが、女の人は尻もちをつく。バサバサっと女の人が持っていたプリントが舞い落ち、私は急いでしゃがみこむ。そして、プリントをすぐにかき集めると。
「……」
立ち上がって、無言でそれを差し出す。女の人は急いでこの場を離れなければ、と本能が言っているのか、私の差し出したプリントをすぐに立ち上がりながら両手で受け取ると、感謝の言葉もなしにその場から消えてしまった。
私とは逆の進行方向に行った彼女の背中を見送って、教室の自分の席に座って、私は思った。
(また、やっちゃった〜……)
悲しみによって崩れ落ちる、頬杖をついていた私の右手。机に突っ伏している私は、他の人から見れば寝ているように見えるかもだが、私は泣きかけている。凄く泣きそうである!
(どうしてこうなるの?……)
こうなる理由は、自分でもわかっている。
怖いのだ。私の容姿が。
前髪は額が見え隠れする程度。ミディアムショートの後ろ髪。虎のような鋭い目つきと、特徴的な八重歯。170センチメートル越えの体は、中学生じゃ高い方。空手をやっているし、筋肉はある。
つまり、ヤンキーのような見た目なのだ!だが、私は断じてヤンキーではない。不良でもない。保育園の頃から、喧嘩はほとんど避けてきたし、空手をしていたのも自己防衛のため。勉強はかなりできる。素行不良は今まで一度も言われたことがない。
正真正銘の、良い子である。
な!の!に!この怖がられよう……。
よくアニメ等に、強い女子が可愛い系のものがあるが、あれが実在するわけがない。実際には大の大人にさえもビビられて、話しかけることすらままならないのだ。
ちらりと、斜め前方の席に座る、谷崎ハルナを見る。
女の子らしい華奢な身体、可愛らしい仕草、癒される性格と声。
……私もああなりたかったと、いるかも分からない神に語りかけてみた。
返事はなかった。
***
そして、谷崎ハルナと柴田サラの関係に気付いた時に至る。つまり、今に至る。
私は1人で黙々と給食を食べている。話すような友達も、部活の仲間もいないからだ。
だが、前の2人は違う。
「ねぇ、柴田さん。なんで、給食って食べなきゃいけないの?」
「……食べなきゃいけないからじゃない?」
「答えになってないじゃん」
パクパクとペースを落とすことをなく、意味の無いような話をしている。そして、2人とも表情や声色は楽しそうだ。
だが、ここで思った。
2人って、関係がバレたら終わりじゃない?
中学生で同居。しかも、クラスの姫(ファン多数)と陰キャ。ボディガードのようなものが出来上がり、谷崎ハルナは別の家に飛ばされ、柴田サラは半殺し。
想像するだけで鳥肌が立つ。
そして、決心した。
私は、二人の関係を隠し通す!だって、
ラブコメみたいで面白いから!
***
放課後、村澤アカリとの挨拶を済ませ、帰宅部は帰路に着く。ほかの部活は部室や更衣室に。柴田サラと谷崎ハルナは、図書室に。
しかし、必ずハプニングというものは起きる。
男子2名がこちらに向かってくる。追いかけっこでもしているのか、片方は
「逃げるなぁ!」
と大声で叫んでいた。もう片方は、
「ヤーイヤーイ!」
とまさしくクソガキの台詞を吐いている。
するとだ。
「うわっ!」
何時ぞや見たような光景が、同じ場所で行われた。足元にあったペンで、男子は転け、そして、
「っ!?」
柴田サラが頭を打った。
2度目の頭突きに流石に怒りかけたようだが、目立ちたくないのか、荷物を持ってすぐに保健室に行った。そのまま帰るのだろう。
谷崎ハルナは保健室に行くのか?と思ったが、気づいた時にはすでにいなかった。
これはまずい!
私は荷物も置いて、すぐに保健室に行った。
***
あいつら、また転けやがって……。
僕は保健室で1人思う。そして、椅子にもたれ掛かる。
放課後の保健室、居るのは僕1人。先生は校内の自販機にコーヒーを買いに行って、今はいない。
コンコン
ノックの音がした。
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。ただの腫れ」
入ってきたハルナを安心させるために、僕は笑って誤魔化した。不安そうだったハルナだが、ちょろいもので、僕はすぐに安堵のため息を勝ち取った。
「ところで先生は?」
ハルナが聞く。僕はコーヒーを買いに行ったことを伝えると、
「そっか」
と言って、メモ用紙を1枚取った。そこに書いたのは、
『氷かります』
「いや、先生が帰ってきてからでいいよ?今日はセールも特にないし……」
僕はまるで保健室から出たような意味のメモ用紙を見て、ハルナに問いかける。返ってきたのは、意味深な笑い声。
「じゃあ、行こっか?」
ハルナはそう言って僕の手首を掴む。
「どこに?」
一瞬間を置いて、ニヤッと笑って。
ハルナは、ベッドの上、と告げた。
***
「……あれ?」
おかしい。中川ホタルはそう思った。
放課後の保健室。先生は外出中。
私は先程開けた横開きのドアを、ガラガラと音を立てながら閉める。
そして、ぼそりと呟いた。
「柴田サラと谷崎ハルナは、ここに来たはずなのに……」
そう、2人の姿がどこにも無いのだ。
3台あるベッドの内、1つは誰かが休んでいるらしい。カーテンが閉まっている。どうやら、熱が出た3年生の男子だそうだ。苦しそうな息も聞こえる。そっとしておいた方がいいだろう。その他には、2人が行けそうな場所は無い。そして、ここから出た音や姿は見聞きしていない。
「……逃げられた?」
まぁ、だとすると。2人はもしバレたとしても、絶対に逃げられる方法を持っているのだろう。なら、安心した。
私は安堵のため息をつく。そして、苦しくて悶えているのか、ベッドの軋む音がする男子の方を一瞥して、また音を立てて保健室から出た。
***
僕はムスッとしていた。
なぜなら、ハルナがものすごく上機嫌だからだ。さっきまでしていたことが、そんなにも良かったのだろうか?
「で、どうでしたか?」
「いや、背徳感と満足感と快楽が凄いね……またする?」
「いや、しない」
ハルナのふざけた返しに、僕は少し睨みながら返事した。さっきは散々弄ばれて、しかも気持ちよかったから、だいぶ不機嫌になってしまったのだ。
「……そんな不機嫌にならないでよ」
ハルナがツンと僕の肩を指で突く。僕は素っ気なく、なってない、とだけ返すと、嘘だぁー、と否定が返ってきた。
「晩御飯抜きがいいの?」
僕がその言葉と共に睨むと、ハルナは
「いえ、絶対にいやです」
欲望に忠実な返事をした。僕は、家に帰るまで黙ることを強要した。
後ろには、同じ制服のガタイのいい女子がいた。
***
翌朝。私の靴箱には、手紙が入っていた。
『放課後、校舎裏に来い』
丸っこい字だった。
そして、冒頭にたどり着くというわけだ。
私は必死の弁明をする。
「いや、違うんだよ!えっと、実は」
「静かにして」
谷崎ハルナはドスの効いた低い声でそう場を制すると、私のことをゴミを見るような目で睨む。
「じゃあ、これは何?」
それから谷崎ハルナが取り出したのは、ボイスレコーダーと写真。
『柴田サラと谷崎ハルナは、ここに来たはずなのに……』という私のつぶやきが入ったレコーダーと、いつ撮ったのかも分からない私の写真。写真には柴田サラと谷崎ハルナが一緒に写っていて、ちゃんと私が帰り道を追っている時のものだった。
「……」
完璧な証拠を前に、私は黙り込む。ちらりと谷崎ハルナを見ると、いつもの彼女からは想像できないなんの表情もない顔だった。
言い逃れできないな。
私は悟って、全てを話すことにした。
「ごめん、合ってるよ。私は、いわゆるストーカーってやつだよ」
両手を上げ、降参のポーズをとる。
ぶたれるか、と思った。ストーカーなんて、ぶって当然のような存在だと思うし。
だが、違った。
何も起きない。私はうっすら目を開ける。
そこには、目を輝かせて私を見ている、谷崎ハルナの顔が。
「うぁっ」
「ねぇ、あなた今、ストーカーって言った?言ったよね?言ってたー!」
私がうめき声を上げるのと同時に、谷崎ハルナは今のセリフを言い終えた。何とか聞き取った私は、
「まぁ、そう……」
と困惑しながら肯定した。
すると、谷崎ハルナは嬉しさでか、その場で小躍りした。そして、言った。
「私と、サラだけのアルバム作ろ!」
と。