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美月ゆめかだよ〜🌸! 第5話、読了したよ! 亜紀の過去がすごく丁寧に描かれてて、胸がぎゅってなった…! 父の死をきっかけに医師を目指して、母を連れて行った思い出のレストランで結婚記念日を祝うところ、もうエモすぎて泣きそうになった😭 しかもラスト、母に「こっちに来なよ」って言った亜紀の優しさと、その裏にある何かを感じさせる余韻…! 次話も楽しみすぎるよ💕 柏木さん、素敵な世界観ありがとうございます!
私が生まれた町は、山に囲まれた小さな町だった。
亡き父と、十二年前に音信不通となった兄と、四人家族で暮らした家で、母は今も一人暮らしをしている。
緑の山と土の匂いが混じる田畑に囲まれた田舎町。
疎らに並ぶ古い木造の家。生活に必要なものだけが揃う小さな商店街。赤・青・白の三色ねじり棒が回る近所の床屋。
その床屋の本棚に並んでいた、端の黄ばんだ『ブラック・ジャック』の単行本。
幼い頃、私と兄はその本を読むためだけに、毎日のように床屋へ通った。
夢中で読んだ『ブラック・ジャック』。どんな難病も治す、黒づくめの無免許医師。
その風変わりな天才医師が、幼い頃の私の憧れだった。
今思えば、その憧れが医師を目指す最初のきっかけだったのかもしれない。
そして十五歳の冬。
雪の降り続く寒い日、突然、父との別れが訪れた。
過労による突然死。
近所ではそう噂されていた。
隣町の中小企業に勤めていた父は、毎晩遅くまで働いていた。
当時の私は何も知らなかったが、会社の景気悪化の中で管理職にあった父は、厳しい日々を送っていたという。
背中を丸めて晩酌をする父の姿だけが、今も脳裏に焼き付いている。
突然死って何?
心筋梗塞って何?
本当にお父さんは過労で死んだの?
人はそんなに簡単に死ぬの?
どうしてお父さんが死ななきゃいけなかったの?
問いを重ねても、答えのない現実だけが残った。
父の死後、私の中で医師になりたいという思いは一層強くなった。
父の残した遺産と、母が町役場で働いて得た貯蓄を使い、私は名古屋へ出た。
アルバイトをしながら大学病院の医学部に通った。
余計な金は使えない。留年などしていられない。
医師を親に持つ同級生たちが、サークルや合コンで騒いでいるのを横目に、必死で勉強をした。
そしてストレートで卒業し、国家試験にも合格した。
今はこうして、雑誌に載るような高級レストランに、堂々と母を招待できるようになった。
「なあ、メニューは持って来てくれんの?」
母は声を潜め、きょろきょろと店内を見回す。
「予約の時に料理も頼んであるから、メニューはないよ」
「あ、そうか。メニューのない店なんて亜紀としか来たことないで。これ、お酒だったな?」
目の前の小さなグラスを手に取り、そっと鼻に近づける母。
「それは食前酒。もう、匂い嗅がないの。結婚式にも出るでしょ」
思わず小さく吹き出した。
ウェイターが前菜を置いていくと、母は思い出したように背筋を伸ばす。
「ああ、そうかそうか」
少し緊張したように笑う母の横顔が、どこか可笑しかった。
「亜紀、今日は仕事を早く終わらせてくれたんだろ? 忙しいのに悪いね。しかもこんな高い店で」
母はフォークを手に取り、遠慮がちに料理を口へ運ぶ。
「何言ってるの。今日はお母さんとお父さんの結婚記念日でしょ。娘として祝うのは当たり前だよ」
「亜紀、ありがとう」
母はふっと柔らかく笑った。
「……うん」
照れ隠しのように蟹を口に入れながら、視線を逸らす。
「遼一さんは? 今日は一緒じゃないの?」
「今日はまだ仕事だと思う。胸部外科だからオペが長くて。毎日遅いの」
「相変わらず忙しい人だね。優しくて立派なお医者さんで、母さん安心だよ」
その言葉に、胸の奥がわずかに沈んだ。
「……うん。支えてもらってるから。心配いらないよ」
視線をフォークに落としたまま、微笑みを貼り付けた。
フルコースを終え、私たちは店を出た。
そのまま母をオアシス21へと案内する。
ガラス張りの屋上に広がる水面が、青い光を受けて揺れていた。
「綺麗だねぇ! 街の灯りも映って、光の泉みたい!」
はしゃぐ母の声が弾む。
「泉か……家の近くにもあるじゃん。山に囲まれた、あの溜め池」
悪戯っぽく笑う。
「神様がいるって言ってた池?」
「そうそう。入ったら水の底に引きずられるって」
私が言うと、母は懐かしそうに笑った。
「あったあった。あの池には怖い神様がおるから、近づいたらあかんって言ったわ」
「今でも子どもに言ってるの?」
「そりゃ言うよ」
「……今思うと、ただの溜め池なのにね」
ふっと笑みを零し柵に寄りかかる。すると母は夜景を見つめたまま、静かに言った。
「大人になるって、そういうもんさ。怖いものの正体が分かるだけだよ」
「……お母さん、あと二年で定年でしょ。退職したら、こっちに来なよ」
私はネオンに背を向けたまま、母の横顔を見て呟いた。