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「ルーイ先生。まずはあなたにご報告することがあります。数日前、コスタビューテの王宮にコンティレクト神がいらっしゃいました」
「コンティが? 何しに来たの。アイツ」
ローシュの神、コンティレクトが王宮に……
事件の捜査状況についてお話しをされると思っていたのでとんだ不意打ちだ。神々はよほどのことがない限り住処から出てこないと聞いたが……どんな目的で我が国を訪問されたのだろうか。
「来訪の理由はそこまで切迫したものではありませんでした。先に予定しているリオラドでの会合日程を延期させて欲しいとのことで……」
メーアレクト様と同格として名を連ねている神……コンティレクト、そしてシエルレクト。三神と呼ばれるこれらの神々が、島で起きた事件について意見を交わすためにリオラド神殿に集結した出来事はまだ記憶に新しい。我が主は人の身でありながら、その神たちの集まりに参加していたのだった。
「そういえばもうすぐだったね。コンティが指定した日時は前回の集まりから20日後だったから」
「コンティレクト神が仰るには準備に思いのほか時間がかかってしまい、予定日に間に合わせるのが不可能になったと。変更後の日程は追って知らせるそうです。神みずから遅延の連絡と謝罪にいらっしゃったので俺も驚きましたよ」
「あいつ変なとこマメだからなぁ。ま、俺らの方も立て込んでるから会合の延期自体はちょうど良かったんじゃない?」
「はい。ここだけの話ですが正直ほっとしています。あの集まりに参加するというだけで精神的負担が大きいもので……情けないことを言ってしまいすみません」
「あれれ……珍しいね、レオンくん。次も俺がついて行ってやるんだから怖がらなくても平気だって」
レオン様がこんな弱気になるんて……無理もないか。先生が付き添って下さるとはいえ、神々の中にひとりだけ人間が混ざるのだ。レオン様が感じたであろう、緊張と恐怖は計り知れない。平常心を保つなど至難の業だ。
「それで問題はここからなのです。コンティレクト神は会合の延期と、前回の会合で俺を昏倒させてしまったことを気に病んでおられまして……お詫びの品を持参してこられたのです。それの扱いに少々悩んでいます」
「コンティがお詫び!? 俺のお灸が効いたのかしらねぇ」
自分はその場にいなかったので、どういった経緯でそのような展開になったのかは分からない。レオン様が倒れた原因はコンティレクト神だとは聞いている。体内の魔力を吸い取られたからだと……
先生から話を聞いた時は大層うろたえてしまったのだが、幸いにもレオン様は数日で目を覚ました。後遺症も無く、魔法も今まで通り使えているので安心していたのだ。
「謝罪は受け取りました。コンティレクト神が俺の魔力を持って行った理由も尋ねたのですが、またはぐらかされてしまいましたね」
「そこは俺にも教えてくれてないからね。コンティの中で何か考えがあるんだろう。再三釘は刺してあるから、変なことに使われる心配はないと思うよ」
シエルレクト神のように人間を食い物にしている神もいれば、メーアレクト様のように一部の人間に寄り添って共存している方もいる。コンティレクト神は人間に対してどのようなスタンスを取られているのだろう。先生とレオン様の会話から窺うに、メーアレクト様寄りの思想をお持ちに感じるが……
神の思惑を自分などが推し量れるはずもないか。ましてコンティレクトは他国の神。考えるだけ無駄だろう。今現在最も身近にいる神ですら何を考えているのか分からないのだから。
人間の……しかも男である俺に対して恋慕の情を抱くなんて。本当に先生は俺の何がそんなに良かったのやら――
「……セドリック、顔が赤いぞ。どうした?」
「何でもありません。ちょっと部屋が暑いだけです」
「今日は涼しいほうだと思うけど……」
「自分は暑がりなので。おふたり共、私のことは気になさらずお話を続けて下さい」
会話の最中であろうと周囲の様子にしっかりと意識を行き届かせている。いつもなら流石だと感心するところだが今は……主の鋭さと勘の良さが憎らしい。完全に己の都合でレオン様に非はないのに。
「それで、コンティの詫び品ってなんだったの?」
「こちらをご覧下さい」
レオン様が取り出したのは白い封筒だった。とりわけ変わったところもないどこにでもありそうな封筒。先生はレオン様から封筒を受け取ると、慎重な手付きで中に入っている物を取り出した。
「これは……」
「コンティレクト神おすすめの料理店の招待券だそうです」
神からの贈り物というから何が出てくるのかと思ったら……。案外普通というか人間でも用意できるような品物が出てきたので拍子抜けしてしまった。
「えー、マジで!? コンティったら俺が喜ぶものが何かよくわかってんじゃん。やったー!!」
先生は大はしゃぎだな。食べるの大好きだもんな。贈り物の扱いに困っているとレオン様は仰っていた。料理店の招待券……これのどこに困り要素があるのだろう。
「あっ……この店があるのローシュだ。もしかしてレオンが言ってた扱いに困るって店が遠過ぎるってこと?」
先生から招待券を見せて貰うと、店の名前らしき単語の下に住所が記載されていた。先生はすぐにその場所をローシュだと特定されたが、自分はこれだけではどこの地域なのかさっぱりだった。
「他国ともなると気軽には行けません。確かに困りますね」
「コンティに送り迎えして貰えば距離の心配はする必要ないよ。ローシュの店選んでる時点で送迎込みのお詫びだと思うわ。この招待券も期限とか無さそうだから焦って使わなくてもよさそうだ。問題解決かな? レオン」
嘘だろ。ローシュの神を足に使うつもりなんですか。先生にしか出てこないであろう発想に驚けばいいのか関心したらいいのか……
「いえ、俺が困っていたのは招待券のことではないのです。そちらはコンティレクト神が先生に贈られた品だったので、俺も詳細は今知りました。ローシュにある店だったんですね」
レオン様が今度は小さな布袋を取り出した。テーブルの上にそれが置かれると、コトンと固い物がぶつかるような音が聞こえた。俺と先生は顔を見合わせたあと、袋を食い入るように見つめた。
「こちらがコンティレクト神から頂いたもうひとつの贈り物なのですが……先生の意見が聞きたいのです」
この布袋の中に入っている物がレオン様に宛てられたコンティレクト神の贈り物らしい。何が入っているのだろう。