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初めてあいつに会ったのは、祖国スターデンメイアを奪還する為に各国の兵が集まった拠点の1つだった――
先程の戦いに大勝利を収めた私達の軍は、歓喜に沸きながらこの一帯で戦う人類側の拠点へと凱旋した。
だけど……
「おい、あれを見ろよ」
「ああ、あいつらどのツラ下げて来やがったんだ」
「本当に今更だな」
その勝利の喜びに水を差す連中がやってきていた。
アシュレイン王国の騎士団――スターデンメイアとの……いえ、人類を守護する約定を破った裏切り者。
戦勝に沸いていた兵達の意気が削がれ、皆その招かざる珍入者に睨む様な鋭く冷たい視線を向けていた。
気持ちは私も同じよ。
だけど大国の驕りがそうさせるのか、神経が鈍すぎて気がつかないのか、私達の蔑む視線の雨にも動じる気配が全くないのにはイラつかされるわね。
「あいつら王都の騎士団だな」
隣に立つゴーガンが、そっと私に耳打ちした。
「王都の?」
「ああ、肩の甲冑紋に見覚えがある」
指摘されて彼らの綺麗な甲冑を見れば、肩にハート型の5つの花弁――スリズィエの花の紋があしらわれていた。
「じゃあ、あれが噂のお飾り騎士団?」
「ああ、その有名な張りぼて共さ」
アシュレイン王国の正規騎士は諸外国の笑い者。
なんせ6年前まで王都周辺の魔を聖女が祓っていたお陰で、彼らはまともに魔獣討伐をしたことがない。だから、常から魔獣を駆逐してきた地方の兵達より王都の騎士共は明らかに弱いのよ。
そして、自分達を守ってくれていた聖女を自分達で追い払って己の首を絞めたのだから笑われるのも当然よね。
「魔と戦う同胞諸君!」
そんな周囲の嘲笑に気が付かないのかしら?
騎士団に守られる形で入ってきたアシュレイン王国の貴族が高らかに口上を述べ始めたけれど、彼が口にした「同胞」という言葉に周囲は殺気だった。
当たり前よ。
誰のせいで皆が苦しんでいると思っているの?
スターデンメイアは魔族を抑える橋頭堡なのよ。
だから周辺国は魔族からの侵攻に際して我が国の救援要請には応じる約定があるのに、それを1番の大国であるアシュレインが真っ先に破ったんだから。
そのせいで、各国の連合軍も簡単に瓦解し、私達の祖国は抵抗虚しく滅んでしまったのよ。
それを今になってやって来て「同胞」などとよく言えたものだわ。アシュレインの連中は顔の皮の厚みだけは最強だったようね。
その後もアシュレイン貴族の三文芝居にも劣る下らない口上が続き、中でも自国を賛美する言辞には誰もが閉口した。
「……そして我が国は魔王を打倒する力『勇者』を連れてきた!」
私もいい加減うんざりして、その場を去ろうとしたのだけど、場に異様な空気が立ち込め周囲がどよめいた。
「あいつが噂の勇者か……」
厳つい戦士である相棒のゴーガンが鋭い視線を送った先の騒ぎの元凶を見て、私はふんっと鼻を鳴らした。
「忌々しい黒尽くめね」
黒い髪に、黒い瞳……
魔族の侵攻に耐えきれず祖国スターデンメイアが滅び、私達はそれから故郷を取り戻す戦いに1年以上も身を投じてきたのよ。
これまで数えきれない魔獣や魔族を屠ってきたわ。それは祖国を滅ぼした憎き相手だからで、黒はその憎い存在を私に思い起こさせる。
だいたいアシュレイン王国が連れてきた勇者なんて信用できるものですか。
私達の戦いに勇者なんていらない。
そんなおとぎ話みたいな不確かなものじゃなく、この私の魔法でスターデンメイアを取り戻すのよ。
私はその為に魔法を磨き、魔を討ち滅ぼす力を手に入れたの。
だから、私自身の手で魔族を焼き払い魔王の息の根を止める!
スターデンメイアの王都が燃える光景を目の当たりにして私はそう誓ったの。だから、私はアシュレインの勇者を睨みながら呟いた。
「勇者なんていらないわ」
それは憎しみなのか、意地なのか、それとも決意から出た言葉だったのか……