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この暗い母がいなくなった悲しい現実世界に


過去の懐かしんだ者同士の父が

いつまでも私と一緒にいてほしいと願った

父のために母の代わりになりたいと願った・・・・・・



今思えば父に恋していたのかもしれない

実の親子でおかしいとは思うけど

私の中では父は恋愛の対象だった




ファザーコンプレックスといわれようと

何だろうと私の中で一番大切なものは

父だった




母の妹の美知恵おばさんはオールド・ミスで

年は父より下の40代半ばだったと思う

それでも18歳の私にとっては

美知恵おばさんは50歳だろうと

40歳だろうとおばさんはおばさんだ




現に父も恋愛対象としてではなく

亡くなった母の代わりに子供達の

面倒を見てくれている従妹の扱いをしていた




子供達の面倒を見てくれる代わりに

父はおばさんの住まいと

生活費を提供している立場だった




美知恵おばさん自身も私が目を光らしているからか

父に対して妙な感情を示すようなそぶりもなく

いつもきちんと父に誠実な態度で接していた


しかし本当に父に対して何も感情がないなら

とっくにどこかで一人で暮らしているだろうし

時々私と競りあったりすることは

なかったのではないだろうかと今では思っている



父が何を望んでいるかということに関して

美知恵おばさんと私の考えには

大きなひらきがあった



そしてその意見のくい違いは

いつも同じ結末を生んだ

時々頑固な性格の私は美知恵おばさんと口喧嘩した




ある日父の好きな食事を作る事で

言い合いになり私は家を飛び出した

子供を産んでいない美知恵おばさんは

子供の扱い方がわからないのでいつも

正論で私を追い詰めた




やたらと叱って子供の悪い所を直す

叱る事しか知らなかった




あのおばさんは退屈で私は彼女に叱られると

いじめられていると感じた

雄二も美知恵おばさんに懐いていなかった





母が亡くなって姉の子供の面倒を

見ようと思ってくれたのだろうけど

おばさんも私達も決して幸せではなかった



話にならない






どうしてして彼女がずっと家にいられたのか

不思議に思うくらいだった

義務感でやっていたのだろうと当時は思っていたが



それはゆくゆくおばさんが家を出ていく時に

こぼした涙で理由が分かるのだけども

大人を見る子どもの目は容赦ない




私は歩いて父が帰って来る駅まで向かった

肌を吹き抜ける秋風にスカートを膝の上まで

吹きまくられながら歩いていた




地下鉄の出入り口は地下から強風が襲ってくる

私は父を待って薄暗くなる夕日と

家々に点々と灯がつくのを眺めながら

そこに立ち,じっと父が地下鉄の階段から

上がって来るのが見えるのを待っていた


裾が地下鉄の風でめくれないようにしっかり

と抑えながら




やがて父が階段から上がってくるのが見えた

少し驚いた顔の父に私は飛びついた

父はまじめくさった顔で私の黒い三つ編みが

風に乱れてボサボサになっているのと

疲れて肌のあれた白い顔を

じっと見つめるだけで何も言わなかった




途端に私は罪の意識にかられて

自分の立場に自信がなくなり言った




「パパ、あたし叔母さんとケンカしたの」




と叫び出すのだがすぐその後




「美知恵おばさんったらひどいのよ! 大嫌い!」





とつけ足した




父は苦痛をたたえた顔でじっと見ていた

わたしが泣き出すと腕に抱きよせ

髪を撫でながら悲しげに





「よしよし・・・可哀想に・・・

ママがいてくれたらなぁ~・・」





と言った




私は父にぴったり寄り添い




「このままおうちへ帰りたくな い」




と言ってみた

すると父は美知恵おばさんに電話をし





「娘と夕食を食べて帰る」と言ってくれた




私は飛び上がって喜んだ

父が連れて行ってくれた店は

駅の近くの焼き鳥屋だった



私はそこで焼き鳥を食べてコーラを飲んだ

父はホッケをあてに熱燗を飲んでいた



私は沢山焼き鳥を食べてデザートに

ゆずシャーベットまで食べた

私は父に色んな話をした

学校のこと、雄二のゲームの時間が長い事

美知恵おばさんが言うくだらない




「改めるに遅すぎるよと言うことなし」

とか

「過ちは我にあり」

とか

「他人のふり見て我がふり直せ」

とか

訳の分からない論語が嫌いだと言った




父は美知恵おばさんがいなくなったら

パパが困ると言った



実際私が全部家の切り盛りをして

まだ小さい雄二のサッカー教室の

送り迎えなどもしながら面倒を見て

大学受験にいそしむ事は無理だった



その時はパパと色んな話をした

パパは私が生まれた時の事や

今の段ボール工場の仕事の事を話してくれた



今度工場に大きな機械を入れるらしい

私は自分と歳の近い子達も父の

工場で働いているのを知っていたので


「私もパパの工場を手伝いたい」と言うと

「甘やかされて育っているお前には無理だよ」

と父は笑った



私は父と腕を組んで大得意で帰った

美知恵おばさんが玄関まで迎えてくれた



父が私をじっとみる「先にお前が謝りなさい」

と言ってるのだ



私は十分父に甘やかされて満足していたので

美知恵おばさんに対して寛容な心になっていた

私の知る限りでは美知恵おばさんは

父と二人で居酒屋などには

行ったことは無い



私はペコリと頭を下げて



「さっきは口ごたえしてごめんなさい」と言った




美知恵おばさんも言い過ぎたと謝ってくれた

もう実際何を言い争いをしたのか

おなかが一杯で忘れてしまっていた



雄二もやってきて

美知恵おばさんは自室に下がり

私とパパと雄二三人でリビングで過ごした





今思えばその時が私の人生での

最高に幸せな時だったかもしれない





そんな風にして私達は母が亡くなってから4年間

死者が残していった奇妙な平安の中に住んでいた







そしてその奇妙な平安に変化のさざ波の

きざしが見え始めたのは






私が22歳・・・・・

弟雄二が15歳・・・

父56歳の時だった




継母は同級生【毎朝10時更新】

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