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特別番外編:『午前6時の朝食と、世界で一番甘い嘘』
午前5時45分。世界の半分を占める妖怪たちが眠りにつく直前、大江山の麓にある小さな隠れ家の一室。神酒――否、今は「安倍」となった荊棘は、気だるげに黒髪をかき上げながら、キッチンで静かに味噌汁の出汁をとっていた。その細い腰には、白いパンツスーツではなく、律が選んだ少しかわいらしいエプロンが巻かれている。「……ん」ふわりと漂う鰹の匂いに、リビングのソファで眠っていた人影がもぞもぞと動いた。人間政府の最高権力者、安倍律。徹夜での極秘会議を終え、数分前にここへ帰ってきたばかりの彼は、高級な黒スーツ姿のまま、眠そうにタレ目を擦っている。荊棘はコンロの火を弱め、おたまを持ったまま振り返った。金の瞳が、愛しい夫を優しく見つめる。「おかえり、律。……ほんまに、何時まで仕事しとんの。顔、ひどいクマやよ。……さっさとネクタイ緩めて、手ぇ洗ってきぃ」「ただいま、荊棘ちゃん……。うう、僕のいないところで夜の世界の妖怪たちが暴れないか心配で、ずっとハッキングと暗殺を同時進行してたんだぁ……。もうヘトヘトですぅ……」いつものように情けない標準語の声を漏らしながら、律はソファから這い出て、のそのそと荊棘の後ろに回り込む。そして、その小さな手を伸ばし、荊棘の引き締まった背中へすがりつくように顔を埋めた。「っ……ちょっと、引っ付きすぎや、喧しいわ。……もう、味噌汁、零すよ」口ではトゲトゲしくあしらいながらも、荊棘の頬はほんのりと赤く染まっている。黒髪の隙間から角が出ることも、髪が真紅(赤髪)に染まることもない。ここは世界で唯一、彼女が命を燃やす必要のない、ただの「人間」でいられる場所だった。律は背中に顔を寄せたまま、ふにゃりとタレ目を下げて幸せそうに笑う。「えへへ、荊棘ちゃんのお味噌汁の匂いだぁ。……世界を騙して、半分ずつ支配した甲斐があったなぁ」「……アホらし。世界の半分なんかどうでもええわ。うちは、あんたがこうしてうちの隣で、情けない顔して笑っててくれたら……それだけで、お腹いっぱいやわ」荊棘は不器用に向き直ると、おたまを置いて、律のふわっとした黒髪を優しく、愛おしそうにくしゃくしゃと撫で回した。「……これからも、うちが一生あんたのご飯作ったるし、一生守ったる。……やから、もう無理して裏で無双せんと、うちの前ではずっと、手ぇかかる子ぉのままでおり」「うん……っ! ありがとう、荊棘ちゃん。僕、世界一幸せな旦那さんですぅ〜!」午前6時。夜が明ける。今日、2人はまた「昼の最高権力者」と「夜の総大将」として、決して交わらない冷徹な仮面を被って世界と対峙する。けれど、その境界線の裏側には、世界で一番優しくて不器用な、愛に満ちた新婚生活がずっと、続いていく――。
コメント
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**みぅ🤍🥀** 読んだよ、第13話の特別番外編…。 本編では絶対に見せない、二人だけの“朝”がすごく愛おしかった。普段は世界の半分を背負ってる二人が、台所とソファの距離でこんなに優しくて不器用なんだなって思ったら、胸の奥がぎゅっとなった。特に「うちの前ではずっと手ぇかかる子ぉのままでおり」って荊棘の台詞が…重い世界を知ってるからこそ、この一言に全部詰まってる気がした。 作者さん、こういう“境界線の裏側”を書いてくれてありがとう。このシーンがあるから、また本編を頑張って読めるよ。大切な宝物みたいな話、ちゃんと受け取った🌙