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触れることのできない彼に、私は恋をした。
近づけば近づくほど、届かない。
これは、孤独な私と触れられない彼の恋の物語。
第1章「はじまりの手のひらが」
触れることのない日々を、私は生きていた。
誰かと目が合うと、なぜか自然と視線をそらしてしまう。
誰かに話しかけられると、何を言えばいいのか分からなくなる。
そんな自分が嫌いで、でも変え方も分からなくて。
気づけば、教室の隅が私の”居場所”になっていた。
昼休み、誰も居ない図書館。
本のページをめくる音だけが、静かに響く。
今日もまた、何も起こらない1日が終わるはずだった。
….あの日、彼に出会うまでは。
その日、私はなんとなく校舎の裏手を歩いていた。
理由はない。ただ静かな場所に行きたかっただけ。
そこにあったのは、誰も使っていない旧校舎の扉。
「….誰が、いるの?」
私は無意識に声を出していた。
返事はなかったけど、何かが”そこにいる”気がした。
ゆっくりと扉を開けるとーー
「わ、見つかっちゃった。」
少年が、 笑っていた。
窓から差し込む光の中で、彼はどこかこの世界のものじゃないように見えた。
「こんにちは。君、ここは初めて?」
まるで旧友に話しかけるような軽やかさ。
でも私は、そんな彼を見た瞬間、なぜか胸の奥がきゅっとなった。
名前も知らないのに、懐かしいような、不思議な感覚。
「….えっと、誰……? 」
「んー、名前はカイって言うんだけど、今はただの…君に会うための人かな」
それは冗談のようで、本気のようで。
私は戸惑いながらも、なぜかその場から離れられなかった。
そして、手を伸ばしかけた瞬間ーー
「だめだよ、触っちゃ。」
彼は少しだけ真顔になってひらりと私の手を避けた。
「僕に触れたら、困ることになるから。」
こうして私は、触れることのできない彼と出会った。
はじまりの手のひらは、まだ届かないまま。