テラーノベル
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「……リリアーヌ…ごめん、幸せすぎて心臓がもたない。これが、これが『供給』という名の暴力か……っ」
俺は今、人生の絶頂、天国に一番近い場所にいる。
場所は王都で最も予約が取れない
かつて伝説の彫金師が住んでいた宝石店を改装したという
超高級リストランテのテラス席。眼下に広がる王都の街並みさえ
今は推しを引き立てるための背景グラフィックに過ぎない。
目の前には、沈みゆく夕陽を浴びて黄金色に輝く髪を気だるげに揺らす
俺の最推しにして婚約者、リリアーヌが座っている。
「ちょっと、さっきから溜息ばかりついて、お料理が冷めてしまいますわよ。……ほら、あーんして」
「……っ!?!?!?」
リリアーヌが少し照れ臭そうに、視線を泳がせながら差し出してきた銀のスプーン。
その先には、淡いピンク色のムースが乗っている。
本来なら、原作の「悪役令嬢がモブを餌付けして屈辱を与える」という極悪非道なシーンのはずだ。
だが、今の俺には後光が差した聖母による、全人類救済の慈悲にしか見えない。
俺は吸い込まれるように一瞬でムースを飲み込み
そのまま彼女の細い手を握りしめそうになるのを、オタクとしての理性を総動員して必死で堪えた。
「リリアーヌ……! 美味い、美味すぎる! 君が選んでくれたメニュー、君が差し出してくれたスプーン、そして君の美しい指先が視界に入るこのアングル……すべてが完璧だ!」
「この瞬間のために俺は前世でサービス残業を何万時間もこなし、理不尽な上司の罵倒に耐えてきたんだな……! 全てはこの伏線だったのか!」
「ま、また意味のわからないことを……! ほら、次はお洋服を選びに行きますわよ。いつまでもニヤニヤしないで頂戴。気味が悪いですわ!」
「承知いたしました女神様! どこへなりともお供いたします!」
その後、俺たちは王都のメインストリートでデートを続行した。
「リリアーヌ、このドレスはどうだ? 君の瞳の色と同じサファイアブルーの最高級シルクだ」
「ドレス……また選んでくださるの?」
「もちろん。いや……待てよ、こっちの真紅のベルベットも、君の『一生跪いてなさい』みたいな強気なオーラにぴったりだぞ! 踏まれたい、このドレスを着た君に踏まれたい!」
「なっ、なんですのその基準は!? ……でも、そうね。この色合い、貴方の瞳の色に似ていて……少しだけ、いいかもしれませんわ」
リリアーヌがボソッと呟いたその一言が、俺の「買い占めスイッチ」を全力で押し下げた。
「店員さん! これからこの店にあるサファイアブルーと真紅の生地、全部買い占める!」
「極端すぎますわ!少しは落ち着きなさいよ!」
靴屋では、職人が跪いて採寸するのを横から凝視し、彼女の小さな足をこれでもかと愛でた。
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