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そこでようやく涼は察し、運転お願いしますと敬礼した。彼を隣に乗せてから、准は自分の職場へと車を走らせる。いつもと変わらないエンジン音を聞き流し、車線変更して加速する。
道中、涼はこんなことを言った。
「同性愛者ってことは置いといて。准さんは誠実でイケメンで家柄も良い。なのに恋人に恵まれないのは」
……准自身、特に意識もしなかったことを。
「何ででしょ? おかしいって思ったこと一度もないんですか?」
ハンドルを握る手に力が入る。
「思ったことないよ。大体自分でそこまで思ってたら、ただのナルシストだろ」
確かに、同年代と比べればそれなりに稼いでるかもしれない。けどそれで、誰かが自分に近付いてきたことなんてなかった。
同性はもちろん、────異性も。
「あれだな。多分、とことん恋愛と縁が無いんだよ」
「百歩譲ってそうだとしても、それは准さんのせいじゃありません。ついてないんですよ、開運グッズ買い揃えましょうか?」
いらない。でも確かに、運は良くない方だ。今日も占い最下位だったし、しょっちゅう貧乏くじを引いてしまう。
懐かしいような気恥ずかしいような、ずっと昔の記憶を辿った。
「そう、昔っからさ。何故か分からないけど、好きな奴には必ず嫌われたんだ。特に何かした記憶はないんだけど、避けられたりすんのは恒例でさ」
「…………」
涼は黙って聴いていたが、またなにか閃いたように指を鳴らした。
「あっ! あぁ、察しました。好き好きオーラ出しまくってたんじゃないですか?」
「それはないかな。俺は誰にも告白する気なかったし、同性愛者だってバレたくなかったから顔や態度に出さないようにしてた。そういうとこも、すごいチキンだからさ」
「そんな、准さんはチキン野郎なんかじゃありませんよ。きっとスパイスのきいたタンドリーチキンです。だから元気出してください!」
「うん……ありがと……」
涼の微妙な励ましにお礼を言う。気付けばもう会社の前で、駐車場に移動し車を停めた。
「運転お疲れさまです、准さん! そんな岸に打ち上げられたイルカのような顔はやめて、今日も元気に行きましょ!」
不安になって一瞬鏡を探してしまったけど、冷静になって車を降りる。
すると全く同じタイミングで、見覚えのある人物が奥に停めてある車から降りてきた。