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眠狂四郎
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眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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マシニーサは、崩れ落ちる男の身体を抱き止めた。
「おい、しっかりしろ!」
返事はなかった。
腕の中から、ゆっくりと力が抜けていく。
五年前、祖国を離れスパルーニャへ出陣した時から付き従ってきた側近だった。
「……くそっ」
マシニーサは、その瞼を静かに閉じてやった。
これで、また一人。
港町を追われ、軍は散り散りになった。
今や彼に付き従う者は、わずか十数騎。
マシニーサは岩陰から遠くを眺めた。
見えるのは、自分が生まれ育った国。
だが今、その故国で自分は追われている。
「何が……どうなっている……」
父王の死を知り、急ぎ帰国した。
王位を継ぐ。
それを疑ったことなどなかった。
だが、待っていたのは王冠ではない。
裏切りと、内乱だった。
「殿下」
生き残った側近の一人が進み出た。
「私が様子を探ってまいります」
もはや一人たりとも失いたくない。
だが、何も知らなければ動くことすらできない。
「……頼む」
男は馬へ飛び乗った。
その背を見送りながら、マシニーサは岩壁へ身体を預けた。
五年前、祖国を発った時、自分は王子だった。
そして今――。
国を継ぐはずだった王子は、自らの国で息を潜めていた。
「政変?」
スピリタスは眉を上げた。
スパルーニャでの戦いを終え、グランへの帰国準備を進めていた矢先だった。
「はい。どうやらスパルーニャを追われたビスコーネが、
ヌミダスの王位継承争いに介入したようです」
「ビスコーネが?」
「マシニーサ殿の弟シュファクスを王に擁立。現在、
マシニーサ殿は各地で敗れ、消息も定かではありません」
スピリタスの表情が変わった。
「マシニーサ……」
その名には覚えがある。
しばらく地図を見つめたあと、スピリタスはシラヌスとラエリウスを見た。
ラエリウスが嫌な予感を覚えた。
「……まさか」
スピリタスの指が、グランへ続く航路から南へ動いた。
「それが本当なら、船の行き先は変わるな」
「待て、スピリタス。我々は帰国するのではなかったのか?」
「ああ」
「元老院にもそう報告してある」
「ああ」
「兵にも伝えてある」
「ああ」
「では、その指はどこを指している?」
「ヌミダス」
スピリタスは平然と答えた。
「ちょっと寄り道するか」
ラエリウスが頭を抱える。
シラヌスは目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……何か考えがあるのだろう。君の好きにするがいい」
こうしてスピリタスは、いくつかの書簡を書くことになった。
斥候に出した男が戻ってきた。
「ビスコーネ?」
報告を聞いたマシニーサは思わず聞き返した。
「ソフォニスバの父君ではないか」
「はい」
そこでようやく、故国で起きた変事の全貌が見えてきた。
父王の死。
弟シュファクスの即位。
その背後にいるビスコーネ。
(なぜ、バルカ陣営の有力将が……)
「それで、ソフォニスバは?」
男が答えない。
「よい。申せ」
「王宮におられます」
マシニーサはわずかに安堵した。
だが――。
「シュファクス陛下の……王妃として」
「…………」
「王妃?」
「はい」
「シュファクスの?」
「……はい」
マシニーサは動かなかった。
ソフォニスバはビスコーネの娘。
そして――自分の許嫁だった。
「なぜ……」
拳が震えた。
「なぜビスコーネは、このような……」
だが、後ろには自分を信じてついてきた者たちがいる。
マシニーサは感情を押し殺した。
地平の彼方に砂煙が上がった。
斥候が叫ぶ。
「マシニーサ様! 敵です!」
マシニーサは剣の柄へ手を置いた。
「よろしかったのですか」
「何がだ」
王宮で杯を傾けていたビスコーネが、側近を見た。
「マシニーサ殿です。バルカ様のお気に入り。このままで済むとは思えませぬが」
「わははははは!」
ビスコーネは高笑いした。
「バルカが何をするというのだ」
側近の表情が固まった。
バルカ。
かつての主君を、意識して呼び捨てにした。
「奴は今、南ナガグツで窮地に立っておる。そのバルカに何ができる?」
ビスコーネは窓の向こうに広がる王都を見た。
王はシュファクス。
だが、軍も諸侯も王家も、自分の手の中にある。
「スパルーニャでは、儂はバルカの部下だった」
杯を握る手に力が入った。
「どれだけ働こうが、誰もが口にするのはバルカ、バルカ、バルカ……」
そして、ゆっくりと笑った。
「だが、ここでは違う」
王都を見下ろす。
「この国を動かしているのは――儂だ」
「マシニーサ殿はいかがいたします?」
「放っておけ。十数騎で何ができる」
「では……」
「シュファクスに追わせろ」
ビスコーネは杯を傾けた。
「せいぜい兄弟で殺しあうとよいわ」
一人の男の歪んだ野心が、
多くの人間の運命を狂わせようとしていた。
コメント
1件
第82話「歪んだ野心」、めっちゃ重かった…。マシニーサが側近を失い、許嫁だったソフォニスバが弟の王妃に——その衝撃、拳震わせるシーンが刺さったわ。ビスコーネの「バルカ、バルカ、バルカ…」の執念が歪みまくってて、憎たらしいけど魅力あるよね。スピリタスが「ちょっと寄り道するか」ってヌミダスに向かうの、めちゃくちゃ熱い。次が待ちきれん🔥