テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「い、今の言い方はさすがに冷たくないですか?! 実の妹かもしれない人を、そんな、化け物を見るみたいに拒絶するなんて……!」
「ふふっ、いいんです……。本当に、こうして生きていてくれただけで、私は……嬉しいですから」
ダイキリを宥めるように微笑むコロナリータ。
その健気な姿に、誰もが絆されるはずだった。
けれど、その瞬間。
私は、見てしまった。
彼女が目を伏せた拍子に、その赤色の右目が、一瞬だけ───ノイズが走るように消え、冷ややかな青色に変わったのを。
「え……」
思わず声を漏らしてしまったが、もう一度彼女の瞳を凝視しても、そこには変わらぬ赤色があるだけだった。
見間違いかしら。
この街の淀んだ空気と、不気味なほどの静寂が、私の視覚を狂わせているのだろうか。
「なんでもないわ。……少し、疲れているみたい」
その後、コロナリータとアルベルトの間には、砂を噛むようなぎこちない会話が続いた。
彼女はアルベルトの忘却を責めることなく、どこまでも献身的に、優しく接していた。
しかし、アルベルトはどこか落ち着かない様子で、何度も何度も、窓の外のあの手入れされたデルフィニウムを見つめていた。
私はその行動に、得体の知れない違和感を感じたが、それを直接口にすることはしなかった。
しばらくすると空は血のような夕焼けに染まり
ダイキリが「もう遅いので、今日は帰らないといけませんね」と重い腰を上げた。
コロナリータは心底残念そうな表情を見せたが、最後は快く、私たちを門まで見送ってくれた。
別れ際、彼女はアルベルトの背中に向かって、呪文のようにこう囁いた。
「また来てくださいね……。どんな姿でもいいですから……。会えて、本当に、本当に嬉しかったです、お兄ちゃん」
その言葉に、アルベルトは振り返ることもなく、何も答えなかった。
帰り道。
スラムの影が私たちの背後から伸びてくる中で、私はふと呟いた。
「……本当に妹だったら、貴方にとっても、救いだったんじゃない?」
アルベルトは、深い奈落の底を覗き込むような沈黙のあと、短く答えた。
「…そうですね」
その声には、何の感情も、体温も宿っていなかった。
スラムを抜けると、遠くに見える中央区の街灯が
眩いほどに、そして吐き気がするほど煌々と輝いていた。