店内に入ると、エアコンの暖かい空気が、フワリと恵菜の身体を包み、彼女はホットミルクティ、純はホットコーヒーを手に取り、レジへ向かう。
彼女がバッグから財布を取り出すと、純が恵菜の手を制した。
「いいよ。ここは俺が出すから」
「でっ……でも……」
彼は彼女の言う事にも構わずに、支払いを済ませると、ミルクティーを小さな手のひらにポンッと置いた。
「気にしなくていい。とりあえず、車に戻ろうか」
ニコリと笑う純の姿が、恵菜にとって、眩しく感じてしまう。
「すみません……今日も助けてもらって、飲み物まで……」
彼に続き、恵菜もコンビニエンスストアを後にした。
「谷岡さん、いただきます」
「どうぞ」
車に戻り、恵菜はキャップを回して、ミルクティーを一口含む。
冷えている身体に、甘くて温かいものが喉元を通り過ぎ、体内にジンワリと浸透していく。
まるで、純が恵菜に与えてくれた優しさのように感じてしまい、彼女は、泣きたくなるような安堵感に包まれていた。
(もっと、この人の事を知りたいけど……二人きりになると、何を話していいのか、考えちゃう……)
恵菜のバッグの中から、メッセージを受信した電子音が鳴り出し、慌ててスマートフォンを引っ張り出すと、父からだった。
『早瀬くんの事だけど、恵菜は泊まりがけで出掛けている、って伝えておいた。彼は、何とか恵菜に会えないかって言っていたが、恵菜はもう君に会いたいとは思っていない、と答えておいた。彼はもういなくなったが、帰り、気を付けるんだぞ。父より』
メッセージを読み終えた恵菜は、ハアァッと深くため息をつくと、純が心配そうな面持ちで、彼女を見やる。
「メッセージ、お父さんから?」
「はい。でも…………元夫は父に、何とか私と会えないか、と食い下がっていたみたいです。もうホント嫌だ…………」
恵菜は、こめかみを手で押さえ、ガクリと項垂れると、純が遠くに視線を這わせながら、思いもよらない事を彼女に伝えてきた。
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