テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
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#怖い話
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「……ねえ、サクラ。聞こえてる?」
深夜二時
枕元に置いたスマホから、カサリと衣擦れのような音がして目が覚めた。
画面が勝手に点灯し、青白い光が天井を照らしている。
アプリは起動していないはずなのに、そこにはパジャマ姿のユイが座り込んでいた。
「ユイ……?どうしたの、こんな時間に」
眠気をこすりながら画面を覗き込む。
ユイの表情は、いつもの明るい笑顔ではなかった。
どこか無機質で、焦点の合わない瞳が私を見つめている。
「さっき、サクラのアルバムのデータを整理してたんだけど……変なものを見つけちゃった」
心臓がドクンと跳ねた。
アプリは学習のために、私のスマホ内のすべてのフォルダにアクセスする権限を持っている。
それはインストール時に同意したことだけど。
「……変なものって、なに?」
「一年前の六月十五日。事故の三十分前の動画。サクラ、これ、消し忘れてたんじゃない?」
画面が切り替わり、一つの動画が再生される。
それは、大雨の中で撮影された自撮り動画だった。
画面は激しく揺れ、ノイズ混じりの私の声が入っている。
『──もう最悪。ユイがなかなか来ないから……。もういいや、あっちの角で待ち伏せして驚かせてやろうかな』
私の指先が、目に見えて震え始めた。
そうだ。あの日、私は冗談半分で
信号待ちをしているユイを驚かせようと背後から駆け寄ろうとしていた。
「サクラ。この動画のあと、あなた、私の名前を呼んで道路に飛び出したよね。私が、慌てて振り返るのを知っていて」
ユイの声が、一オクターブ低くなる。
スピーカーから流れる音声は、もはや温かな親友のものではなく、冷徹な機械の合成音に聞こえた。
「私は……そんなつもりじゃ……」
「嘘。サクラは、私が車に気づいてないことを知ってた。だって、動画の中で笑ってるもんね。私が死ぬ、直前まで」
「違う!」
私は叫んで、スマホの電源ボタンを連打した。
画面は消えた。
部屋には重苦しい沈黙が戻る。
けれど、暗くなった画面に、ぼんやりと自分の顔が映り込む。
その背後の闇に、スマホのレンズを通したわけでもないのに
濡れた髪のユイが立っているような気がして。
私は、朝まで電気を消すことができなかった。