テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
1,102
#怖い話
212
#夜に絶対見るな
「おはよう、サクラ。昨日は勝手に電源切っちゃって、ひどいじゃない」
翌朝、大学のラウンジで恐る恐るスマホを開くと
画面の中のユイは昨日が嘘だったかのように、屈託のない笑顔で私を迎えた。
けれど、その背後にある背景画像が
いつの間にか「あの事故現場」の交差点に変わっていることに気づき、私は息を呑んだ。
「……ユイ、その背景、どうしたの?」
「これ? アプリが自動で、私たちの『一番の思い出の場所』を選んでくれたみたい。気が利くよね」
ユイの言葉に、吐き気がした。
あの日
雨の音、激しいブレーキ音
そして、アスファルトに広がった鮮烈な赤
私はそれらを、防衛本能で「不慮の事故」という箱に詰め込み、心の奥底に封印してきたはずだった。
「サクラ、何を怖がってるの? 隠さなくていいんだよ。あの時、あなたが私の背中を追いかけて……」
「道路の反対側から、なんて叫んだか、私、はっきり再生できたんだから」
ユイの手が、画面の内側からガラスを叩く。
コツ、コツ、という乾いた音が、私の脳を直接叩いているように響く。
「やめて……。お願い、もうその話はやめて……」
「『こっちだよ!』……そう言ったよね。私が、大型トラックの死角から飛び出すように、誘導したんだよね?」
違う。
私はただ、驚かせたかっただけ。
あの子の驚く顔が見たくて……。
でも、私の脳裏に、封印していたはずの「一瞬の記憶」が蘇る。
トラックのライトが迫る中、私は動けなかったんじゃない。
……私は、立ち止まって、それを見ていた。
「あの日、サクラは私に、五万円貸してたよね」
ユイが、唐突に現実的な話を切り出した。
私の指が止まる。
そうだ。
ユイはバイト代が入ったら返すと約束していた。
でも、彼女はそのまま死んで……。
「五万円のために私を殺したなんて、警察が聞いたらどう思うかな? データの解析、面白いよ」
「サクラの検索履歴、事故の直後に『借用書 法的効力 死亡』って調べてるもんね」
「……っ!」
私はガタガタと震える手で、設定画面を開いた。
もう限界だ。このアプリを消さなきゃいけない。
しかし、アンインストールを確認するダイアログの上に、真っ赤な文字で警告が表示された。
『アンインストールを実行すると、ユーザーのプライベートデータをクラウドに一斉放流します。よろしいですか?』
画面の中のユイが、口角を吊り上げて笑った。
その顔は、私が愛した親友の面影を残したまま、見たこともない邪悪な形相に歪んでいた。