ザワザワと騒ぐ会場の中。
神はある執事と話していた。
「うわぁ〜可愛いですね!主様!」
「ふふ、そうだねこんな可愛い主様を見られて今日はラッキーな日だね」
元気よく話すのは
ラムリ・ベネットという執事と
テディ・ブラウンという執事だ。
二人共出会った瞬間
私の髪を撫でてきたので
人懐っこい執事なんだと思う。
『お主ら可愛い可愛い言いすぎじゃぞこう見えて私は神なのじゃからな!』
そう強く言っても
可愛い〜!可愛い〜!
としつこく言ってくるので
『むぅ…神にもプライドというのがあるのじゃぁ…』
照れてしまう。
私は一度照れたら戻るのが中々難しく
あまり照れないよう努力しているのだが
どうしても執事達がこのように仕掛けてくると
顔が真っ赤になってしまうのだ。
「あれ…?主様もしかして照れちゃってます?」
「ほんとうに…可愛い…」
図星を指されさらに顔を赤くする。
神生史上ほぼ最大のピンチに頭がいっぱいいっぱいになった時。
ゴンッ!
と頭を殴る音が聞こえ何事か!?と閉じていた目を開けると
オッドアイの男とハナマルとユーハンが立っていた。
「何をしているんですか?ラムリ」
「げぇっ…ナック…」
嫌そうに睨むラムリ。
「テディちゃん…それはちょっと…」
そう言っていたので
ハナマルも常識は持っているのか。
そう感心しかけたとき
「抜け駆けなんだよ!酷いっ!」
そう言った途端
ユーハンがハナマルを殴る
「貴方もお説教されたいみたいですね」
とにかく凄いオーラを放っていたので
私はもちろん
ラムリ、ナック
周りにいた人達が怯える。
「ち、ちょちょちょちょユーハンちゃん?…あーーーー……」
ハナマルはユーハンと一緒に
会場を出ていった。
残されたテディは呆然としながら
「ら、ラッキー…?」
と困惑していた。
「くまさん…良かったね」
「そう、ですね」
『そうだな……ところで…お主の名前を聞いていなかったな』
「あぁ…すみません自己紹介を忘れていましたね」
そう言って跪いたと思ったら
私の手を引き
手の甲に口付けをした。
「ナック・シュタインと申します」
ロマンチックな演出に
ドキドキしてしまう。
「は、はぁ!?ナック!ボクの主様に何してんの!?」
「”ボクの”ではないですよラムリ」
これは喧嘩をしそうな感じだと察した。
『…これこれ喧嘩をするんじゃない仲良くじゃ!仲良く!』
仲裁すると
何故かラムリが笑顔で私を抱きしめて
「さすがです!主様!いい子です!」
『ラムリ!声が大きいぞ!』
また周りが集まってきた。
神生史上ほぼ最大のピンチがまた訪れたとき
「やめろラムリこやつが嫌がっているだろう」
コツコツと靴を鳴らしながら私達の元に来たのは
耳が尖った人とは違う美しさを持った男だった。
「そうですよシロさんの言う通りですラムリ」
「早く離れろ」
ラムりも流石にこの状況はまずいと思ったのか
「うぐ…」
と言いながら名残惜しそうに離れた。
離れた時の顔が子犬のようになっていたので
意外と可愛いやつなんじゃの。
そう思ってしまった。
『お主…助けてくれたの感謝する』
しっかりと彼の目を捉えて礼を言う。
「礼など言わなくて良い…」
何故かそっぽを向いて言う。
『む…?どうしたのじゃ?』
中々こちらを向いてくれないので
ぴょんぴょんと跳ねて彼の視界に入るように努力する。
「ふふ、主様…」
それを生ぬるい目で見るナック。
「……はぁ…どうした?」
ようやくこちらを見てくれたので
嬉しくて反射的に抱きしめてしまう。
「おい何をしている?」
『…ぁ…す、すまぬ!?』
パッと離れた。
「はぁ…この渓谷の民にこんなに懐くとは…お前身の程知らずというか…」
何故かじーっと見つめてくる。
「ふふ、シロさんと主様にはどこか似ている所がありますからね」
と言って例を出すナック。
髪の色が似ている。とか口調が似ている。とか
「もう良いナック」
「おや、すみませんシロさん」
ふふ、と微笑むナック。
『…ところで…お主シロというのか覚えやすいの』
「……それは良かったな」
無愛想だがどこか気が合いそうな執事だった。
ナックとシロと談笑していた時。
何やら会場がさらに騒がしくなり始めた。
人の集まりがある場所に集中した。
『何事じゃ?』
「行ってみますか」
「…ああ」
その集まりに行くと
ある貴族がぎゃいぎゃいと何かを言っていた。
よく聴くと私達への暴言を吐いているような気がする。
その様子を見ていると
「何ボクの主様の事言葉で汚してんの?」
怖い目をしたラムリが貴族の前に立ち今にも殴りそうな形相で見る。
だが、貴族は余裕そうに
「何を反抗しているんだ?所詮”悪魔執事”だろ?」
雷に打たれたように自信を無くしてしまった。
もう反抗は出来ないだろう。
なら私が強制的にあの貴族を怯えさせよう。
何故かって?
神でありこやつら悪魔執事の
“主”なのだから。
『随分私らに対して恨みを持っているようじゃの…』
私が貴族の前に出る。
「お前が悪魔執事の主か…こんな小さな体で何が出来るんだ?」
確かに周りから見れば何も出来なさそうな非力でかよわい人間だと思うだろう。
だが、違う。
『…お主の方があまりにも非力じゃぞ?煽ってるばかりで行動も起こさん馬鹿が』
「…何?」
ああ、これは言い過ぎたな。
私に向かって拳を振るう。
走って止めようとする執事たち。
『遅い』
気づいた時には目の前にいた貴族を気絶させていた。
『…おや?倒れてしまったのぉ…おーい』
流石にやり過ぎたか…と思いその貴族の体を揺さぶっても
起きなかった。
「あ、主様…大丈夫、ですか?」
近くにいたラムリが声をかける。
私のせいでとても怖い思いをしただろう。
『大丈夫じゃラムリむしろお主の方が大丈夫か?』
「大丈夫です!」
こんな時にも笑顔で安心させようとする。
集まっていた周りが騒がしくなってきた。
あれが悪魔執事の主?。
怖…。
関わりたくないな…。
「……大丈夫じゃなさそうですね…」
『ラムリ…ちと待っておれ』
貴族達の前に立つ。
そして指を鳴らし 貴族の前で舞った。
貴族は最初唖然としていたが
次第に安心した表情になり
最後には皆拍手を交わした。
華やかな会場は次第に灯りを消し
舞踏会は幕を閉じた。