TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

Side 樹


終礼の挨拶をし、教科書やらノートやらを詰め込んだ鞄を持って教室を出る。

まだ病院にいる俺の相棒に、今日も会いに行ってやろう。なんて思っていると、

「樹ー!」

呼び止められた。振り返ると、いつもの遊びのメンバーがいた。

「今日空いてる? 良かったらどっか行こうぜ」

ああ、と眉尻を下げる。

「行きたいんだけどさ、ちょっと今日は見舞いに…」

「京本の?」

うん、とうなずく。少し真顔になったものの、

「わかった。ならお前が空いてる日に誘ってよ」

「おう。ごめんな」

多少の申し訳なさを抱えながら、電車とバスを乗り継いで総合病院に向かった。


受付で相手の名前を告げると、教えられた部屋は集中治療室の番号ではなくなっていた。つまり一般病棟に移れたってことか。

案の定、壁のマップを見て廊下を進むとそこは循環器内科の病棟だった。それに少し安心する。

ネームプレートにはきょも以外の名前も書いてある。大部屋にちょっと緊張しながらもドアを開けると、手前のベッドだけがカーテンが開いていて、彼が読書をしていた。

「よっ」

きょもはいつもの笑みを向けてきた。

「アポなし、2回連続だね」

いや、と苦笑する。

「ごめん。いらないかなって思って…。メールしたほうがいい?」

ううん、と首を振って持っている本を閉じた。

「何読んでたの?」

ベッド脇に置いてある丸椅子を出して腰掛ける。

「これ? 最近の芥川賞取ったやつ。おもしろいよ」

「…へえ、大人だな。俺は知らねえ」

ふふっ、とその唇から笑い声が漏れた。

「まあ、することないから売店で買ってみただけなんだけどな。ここって心筋梗塞とか心不全のおじいちゃんしかいなくてつまんないし」

確かに、ほかの3つのベッドにいる人は寝たきりの高齢者だろうか、起きる気配はない。

俺はちょっと間をおいて、恐る恐る口にしてみた。

「……退院の予定、決まらない?」

「うーん」ときょもは首をひねる。

「今モニタリングされてるから、もうそろそろ判断が下りるかな。その結果が良ければ出られる」

そばにあるモニターを指さして言った。

「そっか。じゃあ――」

決まったら教えて、と言おうとしたが言葉が喉に詰まる。

ズキッと重い痛みが心臓に走って、条件反射で胸を押さえる。これはいつもよりちょっと強い。

「え、樹っ」

きょもが布団をはぎ、俺の肩に触れた。「大丈夫…大丈夫」

震える手で鞄をまさぐり、ピルケースから錠剤を取り出して飲んだ。

さすられてるうちに、だんだん痛さが薄れてくる。

ダメだろ俺、入院患者に心配なんかさせたら。

「ん…ありがと」

「鎮痛剤、先生に静注してもらおうか?」

顔を上げれば、きょもが苦笑いしていた。

「さすがにそれは大丈夫。痛み止め飲んだし」

すると、

「……俺のせいかな」

ぽつりと小さな声がした。

「え?」

「…俺が倒れたとき、樹走って保健室まで行ってくれたんでしょ。それで病状ひどくなっちゃったんじゃ…」

「違う」

俺はきっぱりと言った。

「それは俺の勝手だし。…ま、こないだの通院でまたちょっと心室が狭くなってるって言われたから反省はしてるけど」

だからお互い様だね、と笑った。

きょももわずかに微笑む。

「…それじゃ、早く学校来いよ」

「頑張る」と返事があった。

「…あんま頑張りすぎんなよ」

どっちだよ、と突っ込まれた。「無理したらダメなのはもうわかってる。樹もね」

「ん。じゃ」

ドアを閉める前に軽く手を振ってみれば、はにかんで右手を振り返してくれた。


続く

loading

この作品はいかがでしたか?

70

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚